北海道の若手経営者を育てようと官民で取り組んでいる「北海道経営未来塾」(実行委員会主催)第8期の第1回定例講座が、2023年6月9日、札幌市中央区の札幌パークホテル1階テラスルームで開催された。講師はアインホールディングス(HD、本社・札幌市白石区)の大谷喜一社長。大谷社長は、塾生37人に向かって、「成長への挑戦」をテーマに約1時間講演した。(写真は、講演するアインHDの大谷喜一社長)
大谷社長は、北海道拓殖銀行破綻の前後にホームセンターなど事業の多角化に失敗したことを振り返り、「失敗は過信からくる。それまで算数の世界で事業をしていたのに、多角化によって数学の世界に飛び込んで事業をするようになった。当然、準備ができていないから失敗する。過信すると傲慢になる。傲慢になって調子に乗っているのに、私はそのことを外には出さなかった。大きな家を建てたり、高級車に乗ったりすることは格好悪いという思いもあった。派手には見せなかったが、心は傲慢だった」と、失敗は事業に向き合う経営者の心の在り様が大きく関係していることを強調した。
失敗しているのに、見て見ぬふりをしたり、原因を他に転嫁したりしていると、ますます泥沼にはまり、一発逆転を狙おうという心理が働き、完全に失敗してしまうという自論も披露。「失敗したことを自ら認め、社員にも誠実に話して理解を得ることが大切だ。そのうえで、自分たちでは手に負えない多角化事業を売却するなどして切り離すことが求められる」と、ホームセンター事業や祖業だった臨床検査事業を売却したことに触れた。
売却するにあたり、社員の身分保証を確実にするため、相手先企業に30%の資本参加を行い、問題ないと判断できた時点で資本を引き揚げるなど、今で言う社員ファーストを徹底していたという。
大谷社長は、こうした失敗の経験を語ったうえで、企業が成長発展していくためには、金融機関や取引先、卸などとの良好な関係が不可欠だと訴えた。そのうえで、「良好な関係のベースになるのは誠実さ。自分たちだけでは、いかんともしがたい状況になったとき、良好な関係を築いていれば応援してくれる。私は、今でも金融機関には毎年、年末に直接お邪魔して情報開示をしている」と、良好な関係は無形の財産であることを示した。
また、自社の売上規模について、毎年調剤薬局のM&Aなどで200億円から300億円の拡大が見込めるため、数年で5000億円に到達することを明らかにし、「会社の規模が、これで良いと思ったことは一度もない。いつも全然だめだと思っている。会社を大きくするというモチベーションは、似鳥さん(ニトリホールディングス会長)との出会いがあったから。会社をどんどん大きくしていく似鳥さんを間近に見ているから、自分を律して規模拡大を目指すことができている」と話した。
最後に塾生に向け、「あなたたちは、まさに勝負どころの年代。塾生同士のネットワークを築くとともにライバル心も芽生えさせて、成長してほしい」と締めくくった。