コロナ禍で、まず考えたのは現金を持っておこうということだった。倒産したら終わりなので、倒産しないために現金、キャッシュが必要。どれくらいの現金が必要かと考え、1年分、360億円を貯めようと動いた。
緊急事態宣言でキャンセルが多発したものの、TKP本体の売り上げは戻っていった。こういう時は、じたばたしてはだめ。まず必要な資金を手元に置いておき、いったん冬眠をしたうえで、チャンスだと思ったら一気に攻める。どうしようもない時は、どうしようもない。360億円を集めないといけないが、どう考えても、150億円足りなかった。コロナ禍に入ってから1ヵ月後、どこよりも早く3月下旬に動き出した。銀行に貸し越し枠を設定してほしいと申し出て、4月10日に設定できた。もう少し遅れていたら、日本航空の2000億円貸し越し枠設定などがあって受けられなかっただろう。緊急事態宣言に入ると身動きもとれなかったので、本当に初動が大事だと実感した。
360億円を確保して、不採算事業を売却、業務を整理していった。選択と集中だ。前例はなかったが、果敢にワクチン接種会場の利用を進めて走った結果、それがTKPのターニングポイントとなって収益が一気に戻ってきた。
緊急事態宣言が解けて、一度は売り上げが戻りかけたが、まん延防止等重点措置で、戻りが鈍い状態が続いた。リージャスを買収していたので海外の状況も入っていた。アメリカやヨーロッパでは、ワクチンを接種して経済が戻っていた。その頃の日本のワクチン接種率はまだ数%台という状況だった。90歳の人から80歳、70歳とシニアの人からワクチンを打っていた。コロナワクチンはシニア中心だからインフルエンザの数倍、時間がかかっているという。それでは接種率がなかなか上がらない。企業は、会社の職域接種でインフルエンザの注射を打っている。私は、当時の菅総理に直談判した。
菅総理と会った3週間後に、全国で職域接種会場をつくって150万人にワクチンを打つ体制を整えた。TKPの社員全員を投入して対応した。そのおかげで、お客さまとのパイプが太くなり、2022年4月の新入社員研修あたりから需要が戻り始め、2023年2月期は、単月でも営業が黒字化するようになった。どん底の時に、行動を起こせたからではないかと思う。
リージャス売却によってTKPにとって、何が一番良かったか。売却したことによって現金が320億円になり、有利子負債もほぼ同額と実質無借金になった。今まで大変な思いをしたが、結果的に今は借金がゼロになった。これからのTKPは、持たざる経営に特化して事業を大きくしていく。その原資として300億円の現金がある。今からどういう事業をしようかと、私自身がわくわくしている。
2019年に比べて、現在は7~8割しか戻っていない。ピンチだったが、この間に筋肉質の経営体質にしたので、売り上げが戻らなくても利益が出るようになった。2024年2月期は、2019年比で100%まで戻らなくても、過去最高の利益を出せるだろう。