捲土重来という形で、札幌では2009年にJA共済サロンを運営するようになった。私が、札幌に初めて来た時に泊まったホテルは、チサンイン札幌(現在はTKP運営のアパホテル札幌駅前)だった。チサンイン札幌が、閉鎖されて取り壊されると聞いて、「もったいない」と思った。まだ使えるし、そもそも良いホテルだったので、アパホテルのフランチャイズで直営化することにした。札幌の良いところは、当社営業網の飛び地になっていて、いろいろな実験ができること。TKPは最初、貸会議室だけを展開している会社だったが、弁当のケータリングなど事業の幅を広げていった。
それだけではつまらないので、このホテルにあるカフェや居酒屋を運営して、お客さまに回遊してもらえるのかどうかの実験をしようと思った。貸会議室だけなら時間貸しで終わりだが、ここだと、セミナーが終わったら隣の部屋で懇親会をしてもらい、二次会でホテル地下の居酒屋に行ってもらえる。さらに宿泊をアパホテルにしてもらい、翌朝の朝食はカフェでとって、2日目も会議をしてもらう。そうすると、この建物の中だけで事業の幅を広げることができる。
そんな札幌での実験は、非常に良い結果になった。このアパホテルは、どこよりも稼働率の良いホテルになったし、順風満帆に札幌展開をすることができ、全国に横展開できるようにもなった。新しいものをつくっていけるのが、北海道、札幌。今後もこの地には、非常に期待している。
2017年になって、悲願の上場(東証マザーズ)を果たすことができた。コロナ禍の打撃は大きかったが、上場していたからこそV字回復ができたと実感している。ともあれ、上場後には、いろんなプレッシャーが掛かってきた。まず、大塚家具との提携があった。某証券会社から紹介された案件だった。景気が良くなってくると、なかなか不動産の仕入れができなくなる。どうすればいいか、アマゾンが台頭してきて、家電量販店や家具店などの実店舗の売り場がそんなにいらなくなるだろうと考えた。その中でも、大塚家具の売り場は広いし、都心部にたくさんの店舗があった。いずれ、それだけの面積は必要なくなるから、イベントホールやレンタルオフィスに変えられると思った。
2018年にはEY Japanが主催するアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー、起業家大賞で優勝させてもらい、モナコの世界大会に参加した。アントレプレナーとしても注目されていくわけだが、売り上げと利益を上げないといけないというプレッシャーが強くのしかかった。振り返ると、2019年はプレッシャーの連続だった。
どうやって売り上げと利益を上げるのか、どうやってマーケットを取りにいくのか。その時、レンタルオフィスのリージャスの売りが出てきた。今でもその時のことを思い出すが、いざ、その会社が欲しいと思ったら、値段がどんどん高くなっていく。日本リージャスと台湾リージャスを合わせて450億円から500億円くらいの買収資金になった。為替ディーリングをしながら、少しは安くしたつもりだが、それでも450億円くらい必要だった。それを今回、日本リージャスを三菱地所に約380億円で売却した。TKPがリージャスを持っているよりも、三菱地所が運営する方が、より良い事業になっていくだろうと判断したからだ。リージャスは10年計画、20年計画で資本投資をしなければいけない。それは、当社のビジネスモデルではない。もちろん、「やりたい」と思ったので、残念だった。しかし、選択と集中をしていけば、次のTKPが見えると確信して損切を決めた。
お金をつくることは大変だが、無くなる時はあっという間だ。会社を買う時は、皆さんにも慎重に対応してほしい。海外の会社をM&Aする時には、特に気をつけてほしい。私は、そのことを体験した。特に、国際会計基準にしておかないと、のれん代が直撃する。場合によるが、毎年、何もしなくても有税償却といって、税金を納めなければいけない。なので、いつまでたっても黒字にならない。本業がしっかりしていれば、全部吸収できるはずだったが、コロナの感染拡大が広がり、非常に苦しい展開になった。
コロナ禍になって人が集まることができず、会議室が最初に影響を受けた。海外はロックダウンで行動規制が強くかけられた。日本も海外と同じようになったら、当社はひと月で30億円の赤字になってしまう。当時の手持ち資金では、2ヵ月半で資金繰りに行き詰まる見込みだった。しかし、家賃は払い続けなければならない。自宅待機でも人件費は払わなければいけない。本当に辛かった。
幸い、ロックダウンではなく、緊急事態宣言にとどまったので、売り上げが多少なりともあって生き返ることができた。自分の力が及ばない分野があることを実感したのが、コロナ禍だった。