2021年が明けた。コロナ禍は越年し、先行きの見通しが立たない濃い霧の中を当面は進まざるを得ない状況だ。本サイトの年頭を飾るのは、アークスの横山清社長(85)インタビュー。食品スーパーに身を置いて60年を超えた横山社長の言葉には、業界事情だけではなく社会情勢の変化を読む力も備わっている。生活と密着している食品スーパーの経営で体得した時代観は、先の見えない時代だからこそヒントになりそうだ。横山社長インタビューの2回目を掲載する。(写真は、インタビューに応えるアークス・横山清社長)

「日本の流通2大コングロマリットの一方は効率主義で、もう一方は拡大主義と言える。拡大主義の流通企業グループは、都市のマーケット、つまり“過”のマーケットを押さえたから、今度は“疎”のマーケット、つまり私たちのマーケットを押さえることを進めている。彼らが優越していて、私たちに足らざるものがあるとすれば、敗れるのはハッキリしている。足らざるものを補うために、北海道から東北へと仲間を広げていった。北から南へと下がっていっているため、覇権主義で言うと勢力の拡大に見えるが、そうではない。経済の成長度や実質GDPが低い地域から仲間を固めていき、徐々に繋がっていった結果がアークスの現在の姿だ」
 
「私たちが進めている八ヶ岳連峰経営の体系が完成しているわけではないから、より完成度の高いものにするためにはどうしたらいいか、それを模索している。足し算で規模を大きくすることを是とする気持ちはないが、ある程度大きくなることは力になるから必要だ」
  
「現在、統合に向けて準備を進めているオータニは、北関東にあるため、東北とは飛び地になるので『統合効果がない』など同業者などからは様々なことを言われている。私は、交通の利便性や情報網の発達から見れば、宮城県と栃木県は飛び地ではないと思っている。北関東の周辺は、東京から近いと言いながらも、“疎”のマーケットとやや似ている部分がある」

「北関東で競争力を持つためには、北海道や東北と同様にグループで3000億円経済エリアを構築しなければならない。オータニの年商規模は、約300億円なので同規模の会社10社がまとまらなければいけないが、私は以前から日本の経済状況からみて、1~2年で厳しい経済になるとみていた。まさかコロナでそれが早まるとは思っていなかったが、私たちの考え方に賛同する会社は増えてくると思う」

「この数年間、アークスグループの出店が少なく、『元気がない』など様々な言い方をされてきた。しかし『元気がない』と私たちを批判している同業者などは借金だらけではないか。私たちには、少なくとも500億円を超えるキャッシュがある。それを意図的につくってきたわけで、20年から21年にかけては“攻めの時代”だと位置付けている。ただ、“攻め”と言うと、すぐに新しいところに進出する覇権主義に見られるから、敢えてそういう表現は使わなかったが、社内的には21年は、攻めの世界に入ることで一致している。実はオータニとの統合は年明けの発表を想定していたが、年内になったので、今はなるべく口を開かないようにじっとしている」

「八ヶ岳連峰経営は、同志の個性や良いところを生かす経営なので、生産性が上がらないという指摘もあるが、私たちは個性と生産性の二兎を追う経営ではない。個性を生かして強くなっていくことは二兎を追う経営ではない。対極にあるのが、拡大主義の流通企業だ。GMS(総合スーパー)とSM(食品スーパー)の統合によって、GMSが上、SMが下という上下関係がはっきりしてしまった。今、勢いがあるのはSMで、GMSと統合することによってSMの力が十分に発揮できるのかどうか、注目している」

「私たちのような八ヶ岳連峰経営と似たような体制を取る企業体もあるが、中途半端に取り組んだら途中でうまくいかなくなる。私たちはこの経営体制を採用し始めてから間もなく20年になる。ユニバースと手を組んでからでも10年になるが、ユニバースは東証一部上場企業だった。上場廃止をしてでも一緒になるのだから本気度が違う。物事を決める時には侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をするが、実行することはぶれずに実行している」

「GMSは転機を迎えており、全国のGMSも一部を除いて苦境に晒されている。効率主義の流通コングロマリットは、道内でもGMS店舗を閉鎖するだろう。閉鎖にはお金がかかり、場合によれば3ケタの億が必要になる。その流通コングロマリットは閉店コストをかけてでも閉めていくだろう。それだけの力があるということだ。その時に資本業務提携先の道内SMとの関係が変化するのか、それを見極めなければいけないと思っている。いずれにしても、アフターコロナなのかウィズコロナなのかわからないが、3年先、5年先の設計図をどう描いているかで流通の景色はガラリと変わるだろう」

「そうした中で、私たちアークスグループは派手なことはしないが、“攻め”の営業を徹底する。儲けは、商売の原点だが、アフターコロナ、ウィズコロナの時代は儲けを二の次にして、お客の信用をしっかり掴むことを第一にしていきたい」(以下、次回に続く)



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