2021年が明けた。コロナ禍は越年し、先行きの見通しが立たない濃い霧の中を当面は進まざるを得ない状況だ。本サイトの年頭を飾るのは、アークスの横山清社長(85)インタビュー。食品スーパーに身を置いて60年を超えた横山社長の言葉には、業界事情だけではなく社会情勢の変化を読む力も備わっている。生活と密着している食品スーパーの経営で体得した時代観は、先の見えない時代だからこそヒントになりそうだ。横山社長インタビューの1回目を掲載する。(写真は、インタビューに応えるアークス・横山清社長)
「コロナの感染拡大がここまで長期化するとは多くの人が予想していなかったことだろうが、初期の段階で政府や自治体が強い警戒を呼び掛けたことによって、人々の内向き志向が過剰なまでに広がってしまったと思う。コロナは当然怖い疾患だが、それ以上に消費者の内向き志向の広がりは大きく、極端な話を言えば、パニック寸前の状況がずっと続いているような感じのようにさえ思える」
「こうした社会の緊張感は、年明け以降にどういう現象を引き起こしていくのか。令和2年2月以降のコロナ禍を皆さん等しく経験しているが、捉え方と影響はそれぞれ違う。ビジネス面では破綻現象を起こしている企業のパーセンテージはかなり高いのではないか。新年早々であまり言いたくはないが、本当の意味での経済的な破綻事例は新年度に入ってから避けられないのではないか。そのことにどう対応するのかが、私たちを含めて新年度の大きな課題になるだろう」
「特別定額給付金の多くは貯蓄に回ったようだが、貯蓄するということは生活の不安を解消する手段の一つだ。コロナが増えれば消費者はスーパーで食料品を多く買い求める傾向が顕著に出ているが、これも生活の不安を解消する行動だと思う。実際に食料品が枯渇することはないのに、コロナの警戒レベルが高くなるたびにスーパーに買い物客が殺到する現象が起きている。“巣ごもり需要”が、生活の一つの常識論になりつつある気がする」
「心理的にも経済的にも安全・安心が生活の前提になっている。東日本大震災の際には、コンビニエンスストアが生活のインフラとして存在意義を高めたが、コロナ禍では安全・安心が前提となるため商品の在庫がコンビニよりも多い食品スーパーが存在意義を高めた。コンビニは、やはり多くのチェーン店舗に効率よく商品を配送するための物流システムであって、消費者の台所や冷蔵庫を考えた商品の品揃えではない。消費者はそのことに気づいたのではないか」
「食品スーパーの売り上げは伸びているが、これを成長とは捉えていない。コロナ禍という状況の中で、消費者のニーズに合ったために売り上げが伸びているだけで、自助努力によるものとは言えない」
「私たちは、これまで生産性とか、顧客第一主義とか言いながらも、結局は自分たちの都合の良いようにやってきたことをもう一度見直さなければならない。流通体系をスムーズに回すような生産性第一主義を続けていたらアフターコロナに対応する仕組みとは逆になってしまうのではないか。もっとも、そういうことを言っていると私たち上場会社の株は下がってしまうだろう。いろいろと批判はあるかもしれないが、私は、今は腹の決め時ではないかと思っている」(次回に続く)