ダイイチ(本社・帯広市)は5日、2020年9月期の決算発表のタイミングで突然の社長交代を発表した。同日付で鈴木達雄社長(73)が退任、若園清専務(67)が社長に就任した。鈴木社長の退任は「一身上の都合」ということだが、背景には複雑な事情もあるようだ。(写真は、2013年7月24日、札幌で行われたダイイチとイトーヨーカ堂の提携会見。左からダイイチ・鈴木達雄社長、イトーヨーカ堂・亀井淳社長=肩書はいずれも当時)
鈴木氏は、1977年ダイイチ入社で、その後、取締役、常務、専務、副社長と順調に昇格し2011年12月に社長に就任した。帯広商業界の主要メンバーで1958年に設立されたダイイチ(当時の社名は帯広フードセンター)は、北海道のセルフサービスのスーパーとしては第1号で、その後札幌に「札幌フードセンター」(現イオン北海道)が設立され、以降、セルフサービスのスーパーが道内各地に設立されていった。
ダイイチの社長ポストは、鈴木氏が就任するまで、事実上看板的要素が強く実務は鈴木氏を筆頭に、古い言葉で言えば番頭格の人材が担っていた。鈴木氏の社長就任は、そうした体質からの脱皮を象徴する人事と捉えられた。鈴木氏は、13年7月にイトーヨーカ堂(本社・東京都千代田区)と資本・業務提携、道内の流通業界を驚かせた。
ヨーカ堂との提携(出資比率30%)をベースに新規出店を積極的に進め、ヨーカ堂やセブンーイレブン・ジャパン(同・同)などセブン&アイグループのPB(プライベートブランド)である「セブンプレミアム」商品を売り場展開するなど利益率の向上も進めた。
鈴木氏が社長に就任して以降、業績は好調で20年9月期もコロナ禍の巣ごもり需要の影響もあって5・2%の増収、33・4%の営業増益だった。社長に就任して間もなく9年になるが、こうした好業績を花道に勇退するにしては不自然だ。仮に勇退となれば、会長ポストや顧問ポストに就くのが自然。健康上の理由であってもそういうポストを用意するのが一般的。また、交代のタイミングは株主総会が通り相場だ。今回のような突然でしかも完全引退という形になったのは、本人の固い決意を醸成した大きな事情が背後にあると考えて差し支えないだろう。
大きな事情とは、ヨーカ堂の影だ。提携から7年、ダイイチには提携のメリットが表れているが、ヨーカ堂にとっては道内GMS(総合スーパー)経営にダイイチのサポートは限定的で不満が募っていたと見ても不思議ではない。かつてヨーカ堂などセブン&アイグループは、中興の祖とも言える鈴木敏文会長を退任に追い込んだことがある。ダイイチの鈴木社長退任は、その北海道版と見えてしまう。
ともあれ、鈴木氏の突然の退任でダイイチは次のステージに入った。コロナ禍でスーパーなど流通業界は足元で好調だが、来年以降はそうはいかない。ヨーカ堂との提携強化が進んでいくのか、バトンを引き継いだ若園新社長の手腕に注目が集まる。