「イギリスの流通小売業は、日本の将来の姿を表している」――道内の流通企業S社幹部のS氏が11月上旬にイギリスの流通小売業界を視察、そんな感想を強く持ったという。日本の近未来流通小売業界を暗示するイギリスの実態とはーー。


S氏が驚いたのは、その寡占ぶりだ。大手5社が市場の85%を抑えているからだ。テスコの3割を筆頭に、激裂な価格競争を繰り広げており、M&Aも活発に行われている。
日本ではGMS(大規模小売店舗)が全国展開しているものの市場占有率は3割を超えていないだろう。日本の流通小売業界は、地域ごとにSM(食品スーパー)が力を持っており、群雄割拠の状況。
イギリスは日本と同じように地域色が強いが、こと流通小売業についてはこうした地域色を飛び越えて、資本力による市場主義が吹き荒れたということだろう。
イギリスの大手5社のうちで、マークス&スペンサーやホワイトローズは、高級感を打ち出し、店舗の管理レベルやデザインの統一感が“高質”を演出している一方、ディスカウント路線を取る大手は圧倒的な商品量と価格でイギリスの消費者の台所を支えている。
また、S氏は高質スーパー2社のプライベートブランド(PB)商品の比率が極めて高いことにも衝撃を受けたという。前出のホワイトローズは60%、マークス&スペンサーに至っては100%がPB商品で占められている。もちろん、ナショナルブランド(NB)商品もあるにはあるが、日本と違ってそれほど品質が良いわけではないようで、消費者ニーズに対応するにはNBでは力不足ということのようだ。
このあたりは、イギリスの代表的な食が「フィッシュ&チップス」と揶揄されるように、食に対する淡白な面がNBメーカーがあまり育たなかったことに影響しているのかも知れない。
イギリスの流通小売業は、ユニクロやニトリのように製造小売業的な色彩も強く持っている。製造―物流―小売といったサプライチェーンをほぼ自前化しているというのだ。川下の小売で消費者の変化を読み、川上の製造へフィードバックさせ、短期間で移ろい行く消費者ニーズをすばやくキャッチする仕組みが完成形として機能している。
この仕組みは、日本でも一部の流通小売業が指向しているが、買い物難民が増えている日本では今後市場が広がると見られている食品の宅配や通販にも適用できると考えられている。
これまで日本の流通小売業はどちらかと言うと米国を手本にしてきた面が強いが、成熟したイギリス経済の中で、持続可能性(サスティナビリティ)を指向する流通小売業の実態は日本の近未来を現出していると言えそうだ。S氏が視察によって得た体験は、S社の戦略にどう組み込まれていくのか注目に値する。

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