無印良品の良品計画の松井忠三前会長・名誉顧問は、コープさっぽろ取引業者らで構成される生協会の2015年度定期総会で『無印良品は仕組みが9割』と題して講演、1989年西友から分離してスタートして以来の変遷を振り返り「セゾンの常識は当社の非常識」など如何に経営危機を乗り切って来たかについて自らの体験に基づいて訴えた。IMG_5758(写真は、生協会総会で講演する松井忠三良品計画名誉顧問)

 90年から99年の間に売上高は4・3倍、経常利益は123倍、当期利益は154倍と順風満帆の経営だったが、2000年から売上げは伸びても利益は減少、01年8月中間期に赤字転落した。
 91年に西友から出向していた松井氏は総務人事部長や無印良品事業部長を経て01年に社長に就任。その時に外部の関係者たちから言われたのは「凋落してから復活した専門店はないので頑張ってください」という言葉だったという。松井氏は「再生には3年、1000日かかる」と挫折の要因を分析して復活のシナリオを徹底して議論、社内に浸透させていった。
 
「挫折の要因は、慢心、傲(おご)りだった。『無印はこれでいい』という寄らば大樹、危機感の喪失という大企業病も蔓延っていた。設立から20年経った当時、『訳があって安い』というブランドコンセプトの希薄化も追い打ちをかけた」と述べ、『セゾンの常識は良品計画の非常識』として社内に残っていたセブンの風土を破壊する運動を進めた。
 
「当時は経営計画づくりに9割を注ぎ、1割を実行に注ぐようなセゾン体質だった。それを計画づくりに5%、実行に95%をかける体質に大きく振り子を振った」(松井氏)
 松井氏は、ハワイのスーパーマーケットを視察して経営計画づくりの示唆を受け、「例え稚拙であってもコンサルタントに頼らず自分たちで計画を作らなければ改革は実行できないことが良くわかった。自分たちで作ったことでPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルが回るようになった」と述べた。
 
 また、会社の1階ロビーに経営陣たちが毎朝立って出勤する社員たちに率先して挨拶することも始めた。「報連相(報告・連絡・相談)は役に立たない。挨拶してコミュニケーションの良い社風を作ることの方が良い」と経験談を明かした。
 
 01年以降は業績も右肩上がりに回復を続けているが、松井氏は実感、体得した経営姿勢として31項目を掲げる。少し長いが引用する。
1. 経営にまぐれはない。経営に“たら”、“れば”はない。経営は意図と過程と結果
2. 即断、即決
3. 社長は情報発信体
4. 個性の発揮
5. 煩悩を断つ
6. 自分の頭で考える
7. 当事者意識が成果を生む
8. 会社は社長の人格以上にならない
9. 社長に逃げ道はない。切り開いて前に進むしかない
10. 企業は進化しないと生き続けられない。進化させるのが社長の役割
11. 敗けて、勝つ。プライドは何の役にも立たない
12. 経営は人間に対する洞察。経営はコミュニケーション
13. 変革を成し遂げられる人がリーダー
14. 右か左かの岐路に立った時、難しい方を選択する。困難な選択肢の方に真理が隠されていることが多い
15. 計画は5%、実行が95%。やり切ることが最も大事
16. 部分最適の累積は全体最適にはならない
17. 見て、測れて、手が打てる
18. 謙虚、臆病、危機感
19. 勝って兜の緒は締まらない
20. 急拡大にメリットなし
21. 莫煩悩
22. チンピラでいる
23. 振り子は大きく振る
24. 人はいつも不足気味にしておく
25. 多数決で決めない(会社に議論は似合わない)
26. 継続と変化。基準は「会社にとって正しいこと」
27. 他社に学ぶ
28. デッドラインが生産性を上げる
29. 社風は現場が作る
30. 自前化が改革を進める
31. 人生に無駄な経験は一つもない
 
 松井氏は、社長、会長時代を通じて肝に銘じてきたこととして、最後にこう語った。「奥の院で指示する人にはならない。日本の企業は社長を守ろうとするがそれは違う」


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