農林水産省北海道農政事務所と財団法人北海道中小企業総合支援センターの主催による「北海道6次産業化フォーラム」が19日、ホテルポールスター札幌で開かれた。農林水産業の付加価値向上や地域の活性化を目指した6次産業化の取り組みは道内でも動き始めているが、フォーラムのメーンとなるパネルディスカッションでは農家や農協、道産食材を使ったレストラン経営者など5人が参加、問題点などを語りあった。(写真は6次産業化と地域の活性化を討論したフォーラム)
6次産業化は、農林水産業の活性化や高付加価値化を進めることで農家・漁家の所得向上を目指すとともに地域の雇用確保や活性化を目指すもので、今年3月に6次産業化プランナーの派遣や資金支援策などを盛り込んだ法整備も整った。
パネルディスカッションでは、清里町で「オホーツクマルシェ」を立ち上げた澤田牧場の澤田篤史取締役や野菜の鮮度保持物流システムを始めたJAびえい販売部の佐々木一誠青果販売課長、札幌市中央区でイタリアンレストラン「イルピーノ」を経営、フードコーディネーターとして道産小麦100%の生パスタなど北海道の食材を使ったオリジナル商品の開発を手がけているフードアトラスの川端美枝代表取締役、経営コンサルタントで農業生産法人の経営相談も行っている笹山喜一氏、農水省の高橋博総合食料局長の5人が語り合った。コーディネーターは、北海道宝島旅行社の鈴木宏一郎社長。
澤田氏は、「生産者のこだわりが味に現れれば金額を高く設定できるが、良い作り方をしても味という効果に結びつかない場合もある。生産プロセスを評価してもらうように説明をすることが必要だが、プロセスだけでは消費者の購買意欲に届かない。生産者のこだわりをどう消費者に訴えていくか、そこが壁。もっとも、地元のイベントで経産和牛を使った牛丼を出し、敢えて『経産』と表示したが、『経産』に関心を示した人は5%。その5%の中には出産を繰り返した経産牛の牛丼にプラスとマイナスの評価があったが、多くの人は『経産』に興味がなかった。この事実は、6次産業化のヒントになる扉なのかも知れない」と語った。
佐々木氏は、「鮮度保持技術の活用で首都圏大消費地までの物流を改善できた。ブロッコリーでスタートしたが、スイートコーンや他の農産物でもやりたい。我々の流通形態は認知され、評価されてきたので進めていける手ごたえがある。現状は関東圏だが、関西圏からも引き合いが来ている」とJAびえいが取り組んだ『ベジタブルアイスインジェクションシステム』の可能性を示唆していた。
川端氏は、「生産者が商品加工も手がけ始めているが、リーマンショック後には高いものが売れにくくなった。出口を見据えたモノ作りが大切で、例えば当社で取り組んでいるパスタソースはこれまで冷凍の2人前だったが、最近は常温で1人前のレトルトパスタソースが売れ始めている。作り手は、どこで何を売りたいのか明確に持たないといけないし、売る人と作る人を明確に分けて考えるべき。剣淵で1㌧のカシス取れるが、おいしいけど何を作っていいのか分からないという問題もある。コーディネーター的に商品開発を手伝う人材が必要ではないか」と消費者の動向を把握して商品開発に結び付けて行くことが鍵になると述べた。
笹山氏は、「6次産業化には、作る人、売る人、経営管理する人がいないといけない。気になるのは自分の経営数値を見ていない農家が多いこと。是非数値を見て設備投資の借り入れなど事業計画を作ることを試みて欲しい。一番大事なのは、誰にモノを売っていくのか、それは東京なのか、アジアなのかを見定めて、商品の説明、価格の説明がきちんとできる理屈立てを整備しておくこと。高いものは高いなりの、安いものは安いなりの説明が必要だ。そうやってお客様を説得していくのが大事」と販売ターゲットの明確化を求めた。
高橋氏は、「少子化でかつてよりも胃袋の数が少なくなり、高齢化で胃袋が小さくなる。食の市場全体をどう拡大していくのか、伸ばしていける方向は何か。かつてあったが喪失した市場、例えば朝食の市場は1・6兆円くらいあると言われているし、それを狙うことや一時期ブームになったが忘れられた市場が大ヒットしたハイボールなどがヒントになる。6次産業化には、①消費者基点――ライフスタイルを提案したマーケットの創出②グローバル基点――北海道の場合は、海外からの観光客にどのようなものを供給していくか③地域の基点――身近なところにある地域の魅力をどこまで取りこんでいくか、風土や気候、伝統なども含めての視点が大切」と一次産品で優位性のある北海道は6次産業化の先進地になる可能性を訴えた。
農水省が6次産業化のフォーラムを開くのは初めて。今後、経済産業省が進める農商工連携の政策などと省庁横断的に一次産業の底上げをどう図っていくかも課題になりそうだ。