札幌市内に残っていた数少ない戦前駅舎のひとつ、JR苗穂駅(札幌市中央区北3東13)が11月の新駅誕生によって役目を終えた。冬本番を迎え、人が寄り付かなくなった旧駅は一層寒々しく見える。窓に打ち付けられた板が、自ら時の流れを止めたような覚悟を醸し出しながら越年する。(写真は、新駅の利用で役目を終えた旧苗穂駅)
(駅の連絡橋もそのまま残されたままだ=写真)
1935年、昭和10年に誕生した旧苗穂駅は、戦中・戦後を経て高度成長からバブル、そして平成へと連なる80有余年の歴史を紡いできた。駅には、時代時代の世相を映した人々の息吹が満ち溢れていたことだろう。
希望や落胆、楽しさや悲しさを抱えた幾多の人々が列車に乗り込み、降り立つ。階段を上る靴の音や発着を告げるアナウンスがBGMのように響く。一人ひとりの人生を黙って受け入れる器の力が、駅の個性を形作ってきたとすれば、旧駅の凛とした佇まいはまさに利用客一人ひとりの人生を投影したものだろう。
役目を新駅に託した旧駅は、間もなく解体の時を迎える。厳冬の合間に訪れた青空の下、時を止めたような旧駅の姿が陽光に照らされていた。覚悟を内外に示す孤高さを際立たせながら越年、来たる2019年、平成の終焉と新時代の到来を見究めて姿を消す。