ーーゼロゼロ融資の返済が始まる2023年度以降の景況見通しは。
遠藤 そのような質問が多いですが、多くの取引先にとって、ゼロゼロ融資がすべてではありません。信用金庫は、北海道で14万社ある中小企業のメインバンク指定が最も多い業態です。特に、零細規模の事業者では、圧倒的に信用金庫がメイン指定になっています。頼りにされているし、長いお付き合いをそれぞれの地域でしてきました。ゼロゼロ融資だけでお付き合いが始まったのではなく、長く、しかも世代を超えながらお付き合いが続いている中で、ゼロゼロ融資を予防的にご利用いただいている取引先もかなりあります。ゼロゼロ融資の返済が始まって以降、取引先が影響を受けるかどうかは、企業によって全く違う。マクロの話では片付けられない問題です。
ーーゼロゼロ融資の返済が引き金になって、倒産する企業も出てくるでしょうか。
遠藤 中には出てくるでしょうが、ゼロゼロ融資を受けたからというよりも、ずっと厳しい状態が続いている先ということでしょう。土着の信用金庫は、地域をよく分かっているので、取引先の中身を把握しやすい立ち位置です。人を知っている、事業を知っている、ということが融資をする判断の根っこにあって、その目利きがしっかりとできていれば、変化への対応がしやすく将来の予見もしやすい。コロナということも含めて、今後いろんなことがあった時、取引先と培ってきた関係性がますます大事になってくるでしょう。
ーー返済猶予などリスケジュールも必要になってくるのでは。
遠藤 当然のことです。支援が必要な取引先には、実態に合わせた支援をすれば良いということです。ゼロゼロ融資の返済が始まるから大変だという取引先は、少ないのではないかと私は思っています。後継ぎがいないとか、人手が集まらないといった苦労は、コロナがあって初めて分かったのではなく、長い付き合いの中で分かっていますから、あの手この手で相談しながら必要ならプロパー資金をご利用していただいてきました。取引先とは、どうやって生き延びていただくかというシナリオ設定の段階からの長いお付き合いの中で、そうしたこと(リスケなど)を共に考えて対策を講じていくことになるでしょう。
ーー信用金庫の札幌進出が増えています。
遠藤 取引先の要望もあって、札幌圏に進出しているケースが多いようです。取引先が、先に札幌圏で展開をしていて、札幌圏の情勢を地元の信用金庫に知っておいてもらいたいというニーズは強くなっています。信用金庫にとっても、札幌進出に挑戦することで職員が育つ面もあります。基盤のある地元で満足せず、経営として進化する方向をそれぞれの信用金庫が考えていると思います。
ーー不動産向け融資を伸ばしている信用金庫もあります。
遠藤 札幌圏の不動産貸出し需要があるため、そこにウエートを置いている信用金庫はあるかもしれませんが、そのような信用金庫も本拠地では泥臭く対応しています。札幌圏がまだ不動産で盛り上がっていない25年以上前に進出した信用金庫もあります。そうした信用金庫に不動産案件が増えているのは、ノウハウが蓄積され相談も多くなったからでしょう。札幌圏に進出している信用金庫は、地元を守ることを二の次にして札幌に進出しているわけではありません。どこも、地元を大事にしながらも、結果として札幌の不動産向けのウエートが高くなっているということです。本業支援を、各信用金庫は一生懸命やっていますし、地域の衰退に向き合って、自治体や商工会議所と一体となってさまざまな対策を打っています。こうした信用金庫の生きざまは、決して変わらないでしょう。
ーー大地みらい信用金庫は、地域商社を設立しました。
遠藤 当金庫100%出資の資本金1億円で7月1日に「イーストフロント北海道」を設立しました。当金庫の常務理事が社長に就き、貿易業務や商社業務を経験してきた専門スタッフ2人が東京と札幌に駐在しています。本体の金庫側にとって、お客さまのビジネスの本質がより理解できるようになると期待できます。金庫から出向することによって学んだことが、金庫に戻ってきて生かされます。これまで、紙の決算書や資料をもらって取引先の社長と応接室で話して分かっていたこととは、全く違う見方ができるようになると思います。個別具体的な課題に応えようという感覚は、かなり磨かれるでしょう。そうした職員が、5年、10年と育っていけば、深みのある信用金庫に繋がることが期待できます。