北海道銀行が100%出資で設立した道銀地域総合研究所の設立記念講演会(14日開催)で、「2013年の視座」をテーマに語った寺島実郎氏(三井物産戦略研究所会長、一般財団法人日本総合研究所理事長で道銀地域戦略顧問)は、国際関係の重要なテーマとして米中関係を挙げる。15日に本サイトで掲載した寺島氏の講演の後半部分のうち今回は米中関係をどう見るかについて取り上げる。(写真は、寺島実郎氏)
寺島氏は、中国の習近平と米国オバマ政権2期目の関係は日本の国際関係に大きな意味を持つと言う。以下に、寺島氏の語ったポイントを要約する。
「日本人の潜在願望は米中対立。それが日本の虚弱な世界観の根源になっている。しかし、米中のコミュケーション密度は一段と深まっている。米国における日本の存在感が急速に萎えていることに気が付かないといけない」
「習近平は7年間の農村生活を体験し、田舎の地方政府の役人を長く務めてきた。そういう経験から、ドロ臭さを持つ男で中国の成長重視の裏面や新興富裕層のマネーゲームに対する怒りに近い考えを持っていて草の根主義者と言える体質がある。習近平は米国でホームステイを経験したが、これまで5回の訪米で、その際に必ずホームステイでお世話になったワイオアの家に行って親交を深めている。また、娘はハーバード大に留学中だ。習近平親米派説というのがあるが、この人物はアメリカに対してそこはかとない興味と関心とシンパシー、それにアメリカのある部分をリスペクトしているのは確かだろう。習近平の中国はアメリカとの関係をより踏み込んでいくと思う」
「一方、オバマの第二期政権は、中国をクリントン政権のように戦略的パートナーとは持ち上げていないが、オバマ政権の過去4年間で4回、米中戦略経済対話を北京とワシントンで交互に10人以上の閣僚が出席して行っている。そこでは安全保障から産業教育まで踏み込んだ討議をしており、米中間の密度のあるコミュニケーションを深めている」
「もちろん米中間には懸案の事項がある。例えば経済貿易摩擦。日本人は、米中間は貿易赤字があるからアメリカは中国の為替操作に怒りくるっているだろうと捉えるが、それは違う。貿易の現場にいた人間には常識だが、米中間の貿易赤字の中身のうち6割がアメリカの企業が中国に進出して工場を作り、そこで生産したプロダクトがアメリカに戻っていることによって生じている。ということはアメリカの企業がうるおい、利益を得売る形で米中関係の貿易赤字ができているということだ。アメリカの企業が中国に生産立地した企業からブーメランのような物流が米中間の赤字を生み出している。つまりアメリカの企業が儲かっている中での貿易赤字で、日米貿易摩擦のアメリカの怒りとは違う」
「それ以外にも、人権問題、知的所有権の侵害問題などに米中関係は懸案事項がいっぱいあるように思うが、米中関係は日米関係よりもはるかに強いパイプでコミュニケーションを持っている。日米関係の方がよほど過疎だ。日米間には、閣僚級10人が行き交うような戦略対話は今日でさえ実現できていない。米中関係は一見殴り合っているように見えるけどもしっかりコミュニケーション持っている」
「米中間では、エネルギー戦略における連携が一段と進んできた。シェールガスタスクフォース協定というものを米中間で結んでおり、中国はアメリカのシェールガス回収技術を吸収することになっているし、もっと驚くのは米中原子力共同研究が進み始めていること。中国は日本が原発から距離をおこうという空気を察して、アメリカに刺さりこんで原子力の共同研究を始める。トリウム原発の米中共同開発研究がそれで上海には300人規模の研究所まで作った。驚いたのはトリウム原発の研究推進責任者が江沢民の長男であること。日本が脱原発、再生可能エネルギーと言っているうちに、どんどん世界のエネルギーを取り巻くパラダイムが変わりつつある」
寺島氏が言及したエネルギーのパラダイム転換について、次回に掲載する。