――企業の事業承継や起業の支援も地方創生と密接に関係しますね。
増田 地方では良い商売をしていても黒字解散するところが多くなっている。後継者がいないのが原因で今後も増えるだろう。即効性のある解決策はない。これも日常的に普段からやっておかなければならないことだ。例えば40代、50代の社長がいたとする。その子供たちは10代、20代。そのころから事業承継を始めなければいけない。
商売は難しいのでどんな商売でも承継に最低10年はかかる。相続税や株の移動は専門家に任せれば1ヵ月もあれば終わるが、それを事業承継とは言わない。
本当の事業承継は商売そのものの承継だ。人とのネットワークも含めて、若いうちからそういう状態を作っていかなければいけない。我々が事業承継のサポートができるとすると、今の社長ではなくて次の社長に向かって『あなたはいずれ社長になるのだから』と徐々に自覚させ、覚悟させること。その手伝いだと思う。
事業承継はバトンタッチのリレーではない。現在の社長と次の社長が並走して、『もう走らなくても良い』と現在の社長が走るのをやめた時、並走していた次の社長が一人で走っていくことだ。
経営者には、余裕があるうちに承継を始めようと口を酸っぱくして言っている。心身ともに疲れたから、息子に譲りたいというような事業承継ではうまくいかない。
――北海道拓殖銀行の破綻から20年が経ちました。北海道の企業や金融機関がそこから得たものは何でしょうか。
増田 拓銀が破綻したことによって直接ダメージを受けた企業は、札幌が中心で各地域は、その当時もすでに今と同じように各信金が地元できちんと対応していた。拓銀破綻が発表になって取り付け騒ぎになると言われたが、決定的なダメージを受けた金庫はなかった。慌てふためいて駆け込んでくるお客はゼロだった。
拓銀が破綻したのは、東京進出が原因のひとつと言われている。われわれ信金業界も札幌に支店をどんどん出しており、拓銀の東京進出と同じような状況だとも言える。地元のことを蔑ろにして、身も心も札幌へシフトすると拓銀の二の舞になりかねない。
先ほど事業性評価について企業が行き詰まるのは事業の良し悪しではなく、経営者の良し悪しだと言ったが、最近問題を起こしている大企業はまさに経営者の問題でもある。神戸製鋼所、日産自動車、東芝、タカタ、三菱自動車工業――名だたる企業の過ちは技術の問題ではない。経営陣が引き起こしたものだ。
非常に良くないと思っているのは、経営陣が主導して企業ぐるみで不正をしていること。本来、経営陣に選んではいけない人たちをトップに選んでいた。見かけの数字を一生懸命作ってきた人たちが、社内でのし上がっていったケースが多いのではないか。
自分たちにとって都合の良いようにやってきたツケだ。客観的な数字には皆弱いから、よほど気を付けないと見逃してしまう。常に上に立つ人は、数字をきちんと見ることが大事になる。
拓銀破綻20年にあたって自分たちに照らし合わせて考えなければならないのは、自分たちにとって、やって良いことかどうかの判断基準をきっちりと持っておくこと。決定権を持つ立場の人たちが、『これはやる』、『あれはやらない』という選択を常に行っているかどうかだ。
その際に他の企業と比較を始め出したら判断基準がぶれてしまう。私は外との比較をしないことにしている。自分のところでやるべきことは何なのか、よそでやっているから当金庫でもどうだろうと比較を始めたら絶対にだめだと思っている。
――本日はありがとうございました。