――金融機関は取引先企業のビジネスマッチングや販路拡大など触媒的な役割が求められています。
増田 まさにそのために金融機関は存在している。銀行法や信用金庫法にもそう書かれており、各金庫、銀行も含めて経営理念の中にも全部それが書かれているはず。それをやればいいだけのこと。今までやっていなかったから突然何かをやり始めるというのは、すごく不思議。例えばビジネスマッチングにしても、札幌ドームを借りきって何社が集まったとしても、私はそれをビジネスマッチングとは言わない。
かつてリレーションシップバンキングを金融審議会で議論した際に、毎日の業務の中で取引先同士を繋ぎ、全国の信金の取引先同士を繋ぐことを日常的に行うことがビジネスマッチング、販路拡大支援だと言ったことがある。
―――信金業界も貸出の伸びは鈍いですが、融資の状況は。
増田 数字を追いかけるような融資拡大をすると最後は必ず本来の目的ではなく、逆の結果になってしまう。なかなか思うように融資の数字は上がらないが、『これでいい』と頑張って続ければ徐々に数字は上がっていく。極端な話、融資を増やそうと思えば増やせる。相手構わず貸せばいいだけの話だから。でもそれは本来の役割ではない。
必要な人にきちんとお金が行き渡るようにするのが我々の仕事。そこは我慢しながらやらなければいけない。金利競争に巻き込まれたら自分の首を絞めるだけ。我慢できるかどうかだ。
いまだにダンピングをしている金融機関がある。特に北海道はパイが限られており金融機関の数も多いからだと言われているが、モラルの問題だと思う。
金利競争は独占禁止法の不当廉売に当たる。なぜ咎められないのかよく分からない。いくら自由金利の時代とはいえ、どう見ても逆ザヤの金利設定がある。そんな金利を設定すれば最終的には高くつくはずだ。
――中長期のスパンで見た場合、信金業界の課題は何でしょうか。
増田 それぞれ地元を抱えているが、地元のマチがどうなるかだ。地方創生の議論は『この1年で何をやるか』ではない。私が最初から地元で言っているのは、30年先、50年先を見て手を打っていくことが地方創生だと。総務省の予算があるから、その分捕り合戦みたいなことは地方創生とは言わない。市長や商工会議所の会頭、私たちが議論しなければいけないことは、50年先をどうするかだ。
これを考えないと、どんなに現在のバランスシートが立派でもマチは消滅してしまう。地域金融機関の宿命は、どこかに移り住むことができないこと。地元から逃れられない。如何に自分のマチが疲弊しても、そこからは出られない。札幌にはいろんな理由があって、それぞれ営業店を出しているが、自分たちの依って立つ本拠地のマチをどうするかを考えるのが一番の仕事だ。
北海道の信用金庫は、それぞれの地元で圧倒的なシェアを持ち、ナンバーワン、トップバンキングの地位にある。責任が非常に重たい一方で地域リスクも引き受けている。地域への責任を果たすためにも、財務上もきちんとしていかなければいけない。地域が存続するために金庫として力を注げば、結果として金庫経営も良くなるという発想が大事だ。