小樽商大・齋藤一朗教授の「信金教室」①

金融

 地域に密着した金融機関として展開している協同組織金融機関の信用金庫。人口減少や少子高齢化という地域の厳しい状況を反映、マイナス金利も響いて先をどう描くかが問われている。現在、置かれている信用金庫の状況と次の時代に繋がる処方箋は何か――。協同組織金融機関に詳しい齋藤一朗・小樽商科大学大学院商学研究科教授に分かり易く解説してもらった。題して「信金教室」、その1回目。IMG_1825(写真は、齋藤一朗氏)

 ――北海道にある信用金庫の2016年9月中間の仮決算では、23金庫のうち17金庫が当期純利益で減益でした。(※2017年1月23日に江差信金と函館信金が合併、道南うみ街信金が発足して、現在の金庫数は22になっている)

 齋藤 純利益段階の減益よりも、収益力を見るのに大事なのは業務純益です。そこから有価証券など債券の投資益を除いたコア業務純益がどのくらいになっているのかがポイントです。殆どの信金はゼロに近いのではないでしょうか。本業で儲けられない格好になっています。余資運用で配当利息や債券の売却益を上積みし、業務純益や当期純利益を計上しているのが実態です。

 ――マイナス金利でそうした経営構造はより顕著になってきましたね。今年度の決算は相当厳しくなると言われていましたが、現実のものになってきたようです。信金の今の状況を見てどう感じられますか。

 齋藤 北海道に限って言えば、信金の足下である地元というものを今、一番見直さなければいけない時期なのではないでしょうか。地域金融機関であることを信金は標榜していますから、『自分たちは北見や帯広、札幌に根を張っている』と信金の皆さんは答えるでしょう。でも、本当に地元を良く知っているか、地場の窮状を良く知っているか、地場が持っている潜在能力が良くわかっているか――その点に関しては“クエッション”になってしまいます。
 
 そこまで深く考えていかないと立ち行かないぐらいの状況になっていると思います。融資競争が厳しくなっていますが、敢えて競争の厳しいところに乗り込んでお金を貸しているというのが実情ではないでしょうか。信金の貸出先を見ると、地場の産業にも一生懸命に貸していますが、結果として融資残高の高いウェートは、地方自治体向けと個人向けの不動産です。皆がこぞって、そこに融資すると金利が下がるのは当たり前。コスト構造が変わらない中で、収益だけが下がってきますから、利ざやが取れないという状況が出てきている訳です。 
 
『では、どうするか』と右往左往したところで、自分で自分の首をしめているようなところが現実にはあります。もし競争が激しいところで、生き残らなければならないとすれば、それはもう一段、コスト構造を絞るような戦略をとらなければいけない。つまりコスト集中型の戦略です。一方、『地域の活性化と密接に絡んでいく』、『本気で私たちは地域と心中するつもりです』ということであれば、他の金融機関がやらないような融資(リスクが高いという意味ではなく)、手法論として違うような融資を展開していかなければいけない。例えば担保を付けるにしても不動産ではなく動産担保にするというやり方もあるかもしれません。様々な手法を使いながら収益を底上げしていくことが必要になってきます。
 
 ――リスクを取って特色のある融資をしていくことが必要ということですか。
 
 齋藤 これまでの融資は、現場レベル、営業店レベルで見ると、いかにリスクを低減するか、債権の保全を図るか、ということが第1の優先事項だったと思います。古い話ですが、自分の経験(北大大学院修士課程修了後に第一勧業銀行に就職)でも、お金を貸す際に『裸で貸す』と言うと、上司は、『保証協会を付けられないのか』、『不動産担保は付けられないのか』、『社長以外の第3者の保証は付けられないのか』というようにいろんな形で保全を図ることを考えます。 そうやってガチガチに保全できる融資先は数が限られてきます。そういうところから脱して、自分たちがどこまでリスクが取れるのかを明確に意識しながら融資をしていくことが、今求められています。しかし、未だにリスクを現場レベルでどう低減するか、保全するかということに汲々としてしまっているような感じがします。
 

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