――それを考えると行きつく先は決してバラ色ではありませんね。
増田 心配しているのは、20年前と同じように金融システム全体がおかしくならないために何かをしなければならないという議論が再び出てくるのではないかということ。異次元の金融緩和の出口はソフトランディングではないでしょう。やはり出口も異次元にならざるを得ないのではないか。いつどんなことが起きるかは想像できないですが、気持ちだけでも覚悟しておかなければならない。自金庫で一番困ることは何かを絶えず考えてそれに備え、訓練しておくこと。その時になってこれまで何をやっていたかの結果が出るでしょう。
――そうあって欲しくないですが、覚悟と備えは必要なのでしょうね。ところで次を担う信金マンにとって必要な資質とは何でしょうか。
増田 目利き力とかマッチングする能力とか言われていますが、ひとつの明確な答えはありません。一番大事なのは、自分で物事を考えられるかということ。そして人ときちんと話ができるということ。この2つがあれば信金マンとしては十分だと思います。そのうえで仕事の中で如何にコミュニケーションできるかが大切です。
――定年延長や継続雇用にも各金庫が取り組んでいますが、稚内信金の場合は如何ですか。
増田 当金庫では65歳までの継続雇用を導入していますが、昨日まで支店長だった人が役職なしで報酬も減ればモチベーションも下がります。何か肩書があるとかつての部下たちも接しやすいうえ本人の気持ちも違う。それで今年4月から制度を変えました。継続雇用は10数人いるのですが、この人ならは大丈夫だろうという人を次長職として管理監督者になってもらうようにしました。もちろん役付き手当も出ます。今年は5人ほどが継続雇用で次長職に就きましたが、表情が違うし仕事ぶりも違う。制度を変えて本当に良かったと思います。
――結婚などを機に一度退職した職員の再雇用などはどうしていますか。
増田 結婚、子育てで辞めた人の再採用制度も早くから設けています。数年間で復帰したら最初に入った時の同期の職員と条件を合わせるようにしています。地元稚内では何人も再雇用者がいますよ。もっとも必要に駆られて制度化したものです。また、時間かけて議論することにしていますが、2年後には65歳まで定年を延長するつもりです。
――増田会長が仕事の向き合い方で大切にしていることは何でしょうか。
増田 できるけどやらないという判断とやりたいけどできないでは大違い。私は基本的にどんな業務でもできる状態を維持しなければいけないと考えています。つまりできないことをなくしていくということです。また、“現在最適”よりも常に“将来最適”を優先すべきとも考えています。目先の利益を追うことよりも、将来の利益を目指していくべきと。つまり、今の自分にとって最適な仕事を重視するのではなく、将来に良い効果がでるような種をまく仕事をするべきだと考えます。そういう点では、信金の仕事は農業的だと思います。
――農業的経営の信金というのは、納得感がありますね。それこそ一次産業に優位性がある北海道だからこそ強い信金が地域に育ってきたとも言えるのではないでしょうか。
増田 私たちの仕事はエンドレス、地域がある限り永遠に続けていかなければならない。獲物や作物を獲り尽くしたら別の地域に行けば良いという狩猟民族的な発想では経営していけないのが信金。リレーションシップバンキング、事業再生、地域密着型金融など様々な用語を使いますが、根はみな同じです。
――江差信金と函館信金が合併して「道南うみ街信金」が誕生したり、2年後には札幌、北海、小樽の3信金が合併します。あらためて合併再編についての見解を聞かせてください。
増田 それぞれの金庫の経営判断で決めたことなので、何の違和感もありません。良い、悪いではなくてそれぞれの事情で決めたことですから。協会とすれば決めた合併はスムーズにいって欲しいと考えます。2つの合併ともにスケジュール通りに進んでいるので安心しています。
――最後に、座右の銘を教えてください。
増田 『失敗を怖れること勿れ、不作為の罪こそ怖れよ』です。怖がるな、腰を引くなという意味です。もちろん失敗しない方が良いけど、やっておけば良かったという後悔の方がよっぽど辛いものです。また、井須会長から言われた『草創と守勢いずれが難きや』も心に残っています。中国古典の言葉ですが会長から直々に聞き、理事長としてとても考えさせられる言葉だと思います。
――本日はどうもありがとうございました。
北海道信金協会・増田雅俊会長(稚内信金理事長)に聞く 「地域経済のインフラ機能果たす」
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