IMG_8927 北海道で初めての純揚水発電所となる北海道電力の京極発電所(京極町)が完成間近だ。羊蹄山の裾野に広がる京極町の中心部から車で北へ約45分。山あいの林道に沿って登っていくと谷を利用した京極ダムが姿を見せる。ここに溜まる水をさらに山頂の人工池に汲み揚げて発電に利用する仕組みだ。建設現場には10年間に及ぶプロジェクトのゴールが見えてきた安ど感と来秋から始まる本格稼働を控えた緊張感が交錯していた。(写真は、ほぼ完成した京極ダム。遠方の堤がダムで手前に水が溜められる)

  

 
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  (一片の長さが430mある正方形に高い形の上部人工池)

 京極ダムなどで構成される京極発電所の一帯は国有保安林に指定されており、林道沿いは深い緑に覆われている。地元京極町の同意から始まり国の許可を経て工事着手までに足かけ5年を要し2002年2月から総工費は約1600億円、最大出力60万kwの発電所建設が始まった。夏場の5ヵ月間の限られた工期を途中で需要見通しの関係から一時中断した時期も含めて11年間継続、ようやく完成まであと一歩という段階に入った。

 谷間を遮るように作られた京極ダムは、既に完成していた。このダムは、コンクリート製ではなく岩石と粘土質の土砂からのみで作られたものだ。高さは54m、堤の長さは330mで堤の上は平たんではなく中央付近が盛り土されて緩やかな起伏がある。圧力沈下を予測して設計されているためで、10年、20年後には沈下が収まり平たんな堤になるという。ここには最大で555万㎥の水が貯水される。
 
 さらに林道を車で登っていくと標高900mの山頂にポッカリ空いた広大なすり鉢状の人工池が現れる。一片の長さは約430mもある正方形に近い形だ。ここに京極ダムから引かれた約3㎞の地下水路から水を汲み上げて溜め、必要な時にその水を毎分190㎥落下させその力で地下発電所の水車を回し発電する。溜めることができる水の量は440万㎥で札幌ドーム3杯分に相当する。

 
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  (地下空間に発電施設など心臓部が建設されている)
 

 池の底には屋根のついた取水口が見え、周囲の壁には22度の傾斜角があって壁面は積雪寒冷地であることを考慮、5層にもなるアスファルトで舗装し壁から水が漏れ出ることがないように工夫されている。
 この人工池の近くには京極湿原が広がり野生動植物も多く生息する。できるかぎり影響を及ぼさないように環境調査を徹底、池の建設場所を2度変更したという。
 
 人工池から林道を引き返し、途中から地下発電所に通じる全長1・5㎞のトンネルを抜けると、そこには高層ビルが丸ごと入ってしまうような地下空間が広がっていた。ここが発電設備などを備えた心臓部だ。岩盤をくりぬいて作った空間は5層構造で高さ46m、幅24m、長さ141mの空間。15階建てビルがスッポリ収まる広さだという。発電用水車と水を汲み揚げるポンプの役割を兼ねる設備は下の4層の中に設置されている。既に20万kwの1号機は据え付けが完了、2号機、3号機(各20万kw)も着々と据え付け工事が進んでいる。
 
 地下空間は、地熱の影響で1年中摂氏25度程度の気温があって湿度も80%近い。最大165tの重さまで吊り上げられる移動式のクレーンが2基あり、さながら地下工場のように機械音を響かせながらゆっくり動いていた。
 
 北電が京極町北部に純揚水発電所を建設することにしたのは、泊発電所からの送電線が近くを通っているため。地形などを調査した結果、尻別川支流のペーペナイ川と美比内川の合流部に京極ダムを、さらに上部に人工池を作ることにした。泊からの送電線に繋ぐために5基の鉄塔をあらたに建てたが、自然保護の観点から猛禽類の繁殖時期を避けた9月から11月の3ヵ月間だけヘリを使って鉄塔建設を実施、これだけで3年間を要したという。
 
 
 

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 (京極ダムの堤の上部。コンクリート製ではなく岩石と土砂から成るダム)
 

 純揚水発電所は、上部の人工池に川などからの水が流れ込まない構造で、使う分だけを下部のダムから汲み揚げて発電した後にダムに戻せるメリットがある。川などによって流れ込んだ水も利用する混合揚水発電所の場合に比べてダムの水位を調整する必要がない。
 
 揚水発電は深夜の安い電力を利用して上部の人工池に水を汲み揚げ、昼間に来る電力消費のピーク時に発電して電力供給を調整する発電方法。京極発電所では汲み揚げるのに夜間8時間を利用し、発電は昼間の6時間を使う。単純計算では差し引き2時間、25%分がロスだが、ピーク対応の電源として揚水発電の瞬発性を超える発電システムは今のところないのが実状だ。
 
 電力は貯蔵できないためどうしてもピークに対応した電力を作る必要がある。しかし、原子力や火力では常時稼働が必要で需給調整の機動力が極端に劣る。揚水発電所はピーク時のみ素早く稼動させることができる蓄電施設の役割も担う。
 
 京極ダムは11月から水を溜め始め、来年2月には上部の人工池に水を汲み揚げ、1年後の10月から1号機の運転が始まる。ダムの底になる場所では建設機材や資材、土砂廃材などが徐々に片づけられ始めている。巨大プロジェクトの完成後にはダム監視を除いて無人になるという。京極発電所では常時800人近くが工事を担ってきた。佳境を迎えた現場には秋の気配が漂う。本格発電が始まる来年以降は静寂があたりを包むことになる。



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