札幌証券取引所の「市場改革セミナー」で上場体験を語った北の達人コーポレーションの木下勝寿社長は、北海道の可能性を改めて強調した。「上場できるかどうかは、上場しようと思うかどうかにかかっている」という言葉には道内ベンチャー経営者への叱咤激励が含まれている。昨日に続き木下社長の肉声をダイジェストでお届けする。(写真は、10月22日のセミナーで参加者に語りかける木下勝寿社長)
『最初は、ネット通販サイトが有名になれば儲かると考えていた。でも、そんな簡単なことではなかった。有名になるとそれだけライバルが増えて競争は激しくなる。結局、目立たない路線でファンを作っていく手法が一番だ。本当のファンを作るという意味では、ミュージシャンのファンの作り方を参考にしたい。例えば、矢沢永吉や松山千春のように地道にライブ活動を継続してファンと心がつながっているように、不特定多数ではなく、1回買ってもらった人に一生繋がればと考えている。勝手に口コミが起きる商品を作るのが究極のマーケティングだと思う』
『当社は7割が定期購入のリピーターだが、インターネットで集客するマーケティング、つまりデータ分析に強みを持っている。1人のお客様にいくらの広告コストがかかっているのか、コストとリピートの関係のデータを蓄積しており、例えばヤフーよりもグーグルで検索してきたお客様の方がリピート率は高いことも分かっている。つまり、ネット上で物を買う人はグーグルを使う人が多いということで、1年後のリピート率はグーグルではヤフーの1・2~1・3倍になる。グーグルには、ヤフーの1・2~1・3倍の広告を出しても採算が合うということだ』
『2012年5月29日に札証アンビシャスに上場したが、上場を意識したのは、2000年ころだ。サイバーエージェントが創業2年で上場したのを知って衝撃を受けたのがきっかけだった。それまでは、300~400億円の会社でなければ上場できないだろうと漠然と思っていた。それなのにサイバーエージェントが上場したのでびっくりしたのが上場について考えるきっかけになった。同じ2000年に堀江貴文氏がオン・ザ・エッヂの上場をしたときにもテレビの会見で「27歳で上場するなんて、すごいですね」という記者の質問に堀江氏が、「すごくない。皆上場しようと思っていないから上場できないだけ。上場基準を知っていますか」と答えていたのがとても印象に残った。それで、初めて上場基準と言うのは、そんなに難しいものではないということが理解できた。この2社の上場が、私も目指せば(上場が)できるかも知れないと考え始めた契機になった』
『具体的に上場に動きだしたのは当社の年商が2億円のころ。年商2億円というのは、一番中途半端な規模で社長がいなければ会社が回らないような状態。私もこのまま走り続けて40~50歳代までやれるのか不安になっていたし、それならばキチンとして組織にして後継者も育ててパブリックカンパニーにしたほうが良いのではないかと。幸い、起業したころから公私を別にしていたので、上場準備に入った時も比較的楽だった』
『私は、企業を安定させて成長させたいという思いが強い。上場準備に入ったのは、ライブドアショックの後で06~07年ころ。ベンチャーキャビタル(VC)から支援を受けたいと考えてVCに相談に行ったが、当時のVB経営者は前のめりの人が多かったため、逆に私のような慎重な考え方がVC側に好感されたようで、説明に行った4社のうち3社から資金を入れてもらった』
『VCの資金を入れてから苦労したことはなかった。成長して成功することで利害は一致している。VCはずつと応援、支援してくれた。最後はVCにも儲けていただきたいと考えていたから、上場で(キャピタルゲインがVCに入って)ご恩返しができたかなと思っている』
『上場当時の株価は「なんじゃ、これは」と思うこともあったが、今は落ち着いてきている。ただ、もう少し上がってもいいのかなとは思う。上場して一番良かったのは、株主は経営者の最大の理解者だということ。この経営者のやり方を応援してみようと資金を出して株を持ってくれる。経営者にとっては理解者、応援者でとてもありがたい存在だ』
『上場のデメリットは感じたことがない。逆にメリットとしては思っていた以上のことがあった。上場してもしなくても社内の管理体制はしっかりやっていかなければならない。私は、どちらかと言うと細かいところまで社員はうるさく言うし指示を出す。社員たちは「うちの社長はうるさいな」と思っていたはず。でも「上場するのだから社内体制はきちんと整備しなければならない」と厳しく言うことができたのは、メリットかもしれない』
『大阪で起業して一度失敗して失意のどん底にいた。もう一回やろうと再起して10年ほど前に北海道を選び移住してきた。北海道は日本の国土の中で一番資源が豊かだ。ネットで新しいマーケットを作るとしたら北海道は一番有利だと考えた。それで、パソコン2台を持って時計台近くの狭いビルの一室でスタートしたのが当社の始まり』
『北海道は、素晴らしいチャンスに溢れているのに北海道の人は残念ながらそれがあまり分かっていない。北海道は宝物がたくさんある。おそらく特産品の数は、北海道ひとつで他の46都府県のすべてより多いのではないか。北海道がVB王国になれば良いと思っている』
木下社長は、最後に北海道の可能性について改めて言及した。豊富な資源と広大な大地を持つ北海道は、木下社長が言うように日本の中で最も競争力のある土地であることは間違いない。その潜在力を引き出すのは、やはり道民一人ひとりの意識ということになるのだろう。