札幌証券取引所は24日、有限責任監査法人トーマツ、税理士法人トーマツ、赤れんが法律事務所と共催で「事業承継セミナー」を開催した。税務、経営、法律のそれぞれの視点から事業承継に直面している経営者が何をやらなければならないかについて初歩からレクチャーする入門編とも言えるセミナー。事業承継を検討している経営者や後継者など約30人が参加した。(写真上段左から青山祥子氏、渡辺康志氏、下段左から杉山央氏、湯浅祐一郎氏)
セミナーでは、まず税理士法人トーマツの青山祥子札幌事務所長パートナーが『財産の承継にあたり経営者が考えること』をテーマに講演。「事業承継コストを安くするためには、いつ渡すかが重要。株価が3億円のときか10億円のときかで、相続税が変わってくる。できるだけ株価が低いときに渡した方が良い」としたうえで、生前贈与や株式譲渡のケースで相続納税額に開きが出てくることを紹介。「財産の承継は既成パターンではなくオーダーメイドで考えるもの。中でも自分の会社の株価を見極めることが大事。承継を考えることに早過ぎることはない」と語った。
有限責任監査法人トーマツ札幌事務所の渡辺康志マネジャーは、『会社が永続的に存在し続けるための組織力強化の施策』について講演、「トーマツでは事業承継を最大のテーマとして全国規模で担当チームを組成している」とこの分野に注力していることを強調。ヒト、モノ、カネの3要素について具体的な承継の手順や仕組みについてのポイントを解説した。
続いて、赤れんが法律事務所の杉山央弁護士が『事業承継・M&Aの落とし穴』と題して話し、「事業承継の実質はM&Aだが、全国規模で廃業率が開業率を上回っている中で、事業承継は国家的課題の一つ。しかし、中小企業の2社に1社は相続税の問題を抱えており、事業の承継が難しい」と現状を説明。そのうえで、会社の規模が小さいほど事業承継は進まず、「承継の話の切り出し方ひとつで、後継者が敵に見えたりする。婉曲的に接するとさらにダメというケースも多い。経済産業省によると、事業承継の適正年齢は55歳。承継には10年かかるのが通例だ」と述べた。
杉山氏は、事業承継を成功に導くポイントとして①明確な方針②早期の取り組み③事業承継計画の策定、管理、スケジューリング④根性⑤定性的ではなく、定量的に捉える――を掲げた。
また、個人保証を外す一つの方法として株式上場に言及、「札証は上場基準を緩和したが、先にアンビシャス上場を果たした北の達人コーポレーションは優れた上場例。上場を毛嫌いしていた経営者の中には、北の達人の例を見て面白いと前向きになった人もいる」と事業承継について回る個人保証を外すには上場も重要な選択肢であるとした。
最後に札証上場推進部の湯浅祐一郎部長が『会社が将来的に発展していくための選択肢の一つである株式公開』について紹介し、アンビシャス市場の上場基準緩和で成長性が高くなくても安定的に成長を続けている中堅・中小企業にも上場の道が広がっていることを説明し、事業承継の出口戦略としての上場について話した。