貸会議室で年商100億円、リアルなオールドビジネスをネットで新興ビジネスに変えた「TKP」河野貴輝社長の軌跡③

経済総合

貸会議室ビジネスというニッチな市場の創出で成長してきたTKPは、新たな未開拓マーケットとしてホテルの宴会場をカンファレンスセンターとして貸し出すビジネスに進出した。河野貴輝社長はそれを「ホテル業界のLCCを目指す」と表現する。航空業界に新風を吹き込んだLCCのようにホテル業界に新風を興す意気込みを託したものだ。SATOグループの講演で河野氏が語ったシリーズの最終回。(写真は、SATOグループのセミナーで講演する河野貴輝社長)
 
 オフィスビルの空きスペースを利用した貸会議室ビジネスというニッチマーケットから成長してきたTKPだが、「競争のない未開拓市場(ブルーオーシャン)は、すぐに競争の激しい既存市場(レッドオーシャン)になってしまう」と河野氏が語るように、現在の東京は同業の貸会議室で溢れている。常にビジネスは追随され、さらに成長を目指すにはリスクを取ることが不可欠。
 
 経常利益の範囲内で投資を重ねてきたTKPは、河野社長に言わせると「ノーリスク、ハイリターン」。そこで、新たなブルーオーシャンとして進出したのがホテルの宴会場をミニチュアコンベンションセンター(カンファレンスセンター)として貸し出すという新たなマーケットの創出。
 
 ホテル業界は、帝国ホテルやホテルオークラなどフルサービスのラグジュアリーホテルと東横インなどの宿泊特化型ビジネスホテルに二極分化する傾向にあり、その中間に当たるシティホテルは年々市場が縮小している。国内のホテル市場は10年ほど前に年間3兆円と言われていたものの現在は2兆円あまり。実に1兆円近くが縮小した訳だが、その多くは中間層とも言えるシティホテルの収縮。
 
TKPは、この中間層ホテルの再生を新たなビジネスのブルーオーシャンと位置付け、「ホテル業界のLCC」という戦略を掲げた。「LCCは、運航コストや人件費の削減、機内サービスの簡略化で効率性を高めて低価格な航空サービスを実現している。ちょうど大手航空会社と長距離高速バスの中間を取り込むことで新たな市場を生み出した。当社が取り組む中間層ホテルの再生は、この考え方と同じ」と河野氏。
 
サービスを細分化して適正価格に値決めすることで競争力のあるホテル宴会場サービスを提供したり、これまでホテル宴会場を使うことに躊躇していた企業も利用できる価格に設定し新たな市場を構築するというものだ。LCCの考え方を導入するため、TKPの取締役に格安航空券で成長したHISの澤田秀雄会長も招聘している。「ホテルの厨房では会議用の弁当も作る。ホテルの弁当がTKPの会議室で食べられる。これこそ差別化になる」(河野氏)
 
 TKPは、こうした日本で生まれたビジネスモデルを世界で展開する布石として海外にも打って出た。昨年8月には上海にホテルを利用したカンファレンスセンターをオープン、ニューヨークには今年11月27日にオープンする。「ニューヨークマンハッタンのミッドタウンに1000坪のカンファレンスセンターをオープンするが、マンハッタンではユニクロが1500坪の店をオープンして話題になった。TKPは日本の企業で2番目に大きい面積で進出する。ここを海外のフラッグシップにしていきたい」と河野氏は意気軒昂。
 
 積極的な海外展開を志向しつつも、河野氏は硬軟両様の一面も見せる。「当社のようなビジネスは海外にない。慣習も何もかもが違うので、海外でうまくいかなかったら撤退して日本の中で頑張る。ただし、アジアまでは射程範囲。シンガポールと香港にはチャンスがあるはず」と語る。
 
 TKPは昨年の東日本大震災でも5億円のキャンセルがあったが、リーマンショックでの大量キャンセルを取り戻したように、わずか2ヵ月で正常化させた。ITを使ったリアルビジネスの模索から生まれた貸会議室ネットは、BtoB(ビジネス・トゥ・ビジネス)の新たな市場を創出し、さらにホテル業界のLCCと形を変えて進化しつつある。
 
 河野氏は、社名のTKPの由来についてこう語る。「チーム・革命・パッションの頭文字から取ったものと今は言っている。そのほかにもいろいろな解釈ができるが、本来はタカテル・カワノ・パートナーの頭文字。そう、私の名前なんですよ」
この柔軟性こそがTKP、河野氏の真髄なのだろう。(終わり)

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