札幌の経営者交流組織、「一への会」(会長・渡邊克仁北都交通社長)は17日、「2016北海道ニューフロンティア経営セミナー」を札幌市中央区の京王プラザホテル札幌で開催した。今年のセミナーのテーマは『グローバル経済を生き抜く経営戦略』で、キッコーマン名誉会長の茂木友三郎氏、ネスレ日本社長兼CEOの高岡浩三氏、スターバックスコーヒージャパン代表取締役・CEOの関根純氏がそれぞれ各企業の例を元にグローバル化について講演、約1000人が熱心に聴講した。(写真は、挨拶する一への会渡邊克仁会長)
茂木氏は、『キッコーマンのグローバル経営』と題して講演。グローバル化と市場経済化の2つの流れは今後ますます加速して、これまでグローバル化と関わりがなかった企業も関与せざるを得なくなると指摘。現在、キッコーマンの食品の海外生産比率は57%で営業利益の75%を海外で稼ぎ出していることを紹介しつつ、「キッコーマンは1955年以降に当社の8割を占めていた主力商品の醤油が国内で伸び悩み、新しい市場を見つけ出さざるを得なかった。その対象が米国だった」と述べ、米国の食品スーパーでカットした肉を醤油で焼いてデモンストレーションをしたり、レシピ開発を進めて需要を創造していった経過を話した。
「広告宣伝にも力を入れ、当時の米国大統領選開票速報のCM枠を年間広告費すべて使って買い取り、『キッコーマン』を宣伝した。最初は、テレビ局も『キッコーマン』のことを知らないから文字を逆さまに映して放映されるほどだった」と述懐。そのCMによって認知度が高まり西海岸の『セーフウェイ』との取引が始まったとした。
米国ウィスコンシン州に工場を建設したのは73年、その後98年にはカリフォルニア州にも工場を建設、「そのころにグローバルブランドの基礎ができた」と語った。97年には欧州向けにオランダ工場を建設して世界展開を手がけた。現在では、米国ウォルマートなどに向けて日本の食品卸を行ったり、アジアでトマトケチャップやジュースのデルモンテ事業を展開したり、中国とタイに工場を稼働させていることも紹介。茂木氏は、世界中で日本食に関心が高まっている点から「キッコーマンにはフォローの風が吹いている」とした。
(写真は、茂木友三郎氏)
続いて、高岡氏が『ネスレ日本のマーケティング経営~ソリューション型イノベーションへの挑戦~』をテーマに講演。同社の直近の業績は、売上高で前年比4・6%の増加、営業利益は8・6%の増加で利益率は0・7%増加していることを説明、売上高は3300億円程度、営業利益率は20%台半ばだとした。「私が社長を引き継いだ5年前から業績は右肩上がり。その前の10年間は右肩下がりだった。この5年間、大きく伸びている要因は、当社が21世紀型のマーケティングをしている点だ」と述べ、顧客が分かっていない問題を解決するイノベーションマーケティングから生まれたコーヒーマシンの“バリスタ”が3年で300万台規模に成長したこと、オフィス内でのコミュニケーション不足の解消にもネスカフェアンバサダー(マシン無料貸し出し)が役だっておりアンバサダーによるコーヒーが昨年で全国10億杯、今年は15億杯に達することなどを説明した。
また、高岡氏は高齢化が進む地方で家庭内に普及させたバリスタをネットに繋ぎ、毎朝バリスタのボタンを押すと都会に住む子どもたちにスマートフォンで連絡が入る仕組みも普及させる考えを紹介、「高齢化が進む世界の中で世界トップの食品企業として中高年の健康問題に関わるのは当然。毎日の食事をスマホなどで撮影してネスレが個別の栄養相談をしたり運動を推奨するなど、BtoC、BtoBで健康をサポートしていくことがイノベーションマーケティングだ」と訴えた。
高岡氏は、政治も経済も顧客が分かっていない問題を見つけ出すイノベーションマーケティングが欠けていると指摘。その結果、同質競争に陥って疲弊しているのが現状だとし、「北海道など地方の企業は、厳しい環境だからこそ顧客が分かっていない問題を見つけられるのではないか」とエールを贈った。
(写真は、高岡浩三氏)
最後に関根氏が『パートナーのES(従業員満足度)にフォーカスしたSTARBUCKSの成長戦略』と題して講演。スターバックスコーヒージャパンは、95年に日本の流通アパレルと米国スターバックスの合弁で設立されたが、昨年米国本社によるTOBで100%子会社になったことを紹介、経営の自由度がより高まったと説明した。
関根氏は伊勢丹から札幌丸井今井の専務、社長を経て2011年6月から現職。「私が社長に就任したころは国内980店舗で売上高は1000億円程度だったが、現在は1180店舗で売上高は1600億円になった。単体では日本一のコーヒーチェーンだ」と話した。デパート業界が長かった関根氏が驚いたのは、接客用語のマニュアルがないこと。「アルバイトをしている88%の人が働いて楽しいと思っているアンケート結果がある。それは、接客や挨拶のマニュアルがなく、自分自身で考え判断して対応するオーナーシップが浸透しているから」と述べた。
道内とゆかりの深い関根氏だが、「現在、道内には30店舗展開している。昨年は帯広に1店舗出店したがそこで人材が育って来れば釧路など道東に出店したい」とした。
関根氏が社長に就任したときは、スタバジャパンは誕生15年目でまだまだ基盤ができていなかったことを実感していたという。「この5年間は原点を作る信念で経営してきたが、今年の8月で設立20周年になる。いよいよ成人の域に到達することから、『やんちゃな大人になろう』と社内にメッセージを発している」と語った。
(写真は、関根純氏)