「ATMも観光のツールだ」と言うのは、札幌大学経営学部教授の佐藤郁夫氏。観光とマーケティングについて研究している佐藤教授は、これまで観光と無縁と見られていた銀行や保険業界も観光の一翼を担う意識を持つべきと強調する。東日本大震災で観光客が激減している道内だが、観光立て直しにはこれまでの垣根を超えた取り組みが求められる。「観光とATM」のように一見関係のない言葉同士を結び付けていくと、北海道観光の新たな地平が広がる。(写真は佐藤教授)

 

 ATMとは、言わずと知れた銀行や郵便局、コンビニと道内のいたるところに設置されている現金自動預け払い機。

 

 佐藤教授は、観光とは一体何かをもう一度考えてみる必要があるという。従来なら航空、鉄道、バスなど輸送手段とホテル、旅館といった宿泊施設を連想する。もちろんこれらの業種は観光の骨格であることに違いないが、佐藤教授は「観光産業は存在しない。産業の集積から出来上がっているのが観光だ」と言う。

 

 つまり、ぶどうの房のようにクラスターになっているのが観光というわけ。大学、研究所、地方自治体、銀行、保険も産業を担っているから当然、観光に結びつく。

 

「観光とATM」は、例えばオーストラリアからの観光客が、ATMを使ってもオーストラリアドルと連動していないから使えない。これでは長期滞在するオーストラリア人にとって不便この上ない。あらゆる産業網に観光という横串を通すことによって、外国人をはじめ道内を移動する道民観光客にとっても利便性、快適性はより高まることになる。

 

 一見、離れているような事象を結び付けていく発想は地域振興にも効果をもたらす。佐藤教授は、天塩町の例を掲げる。

 

 天塩町は地場産品である魚介類の販売を伸ばすために補助金を得てマーケティング活動を実施した。どんなマーケティングだったか――東京の中野区や新宿区の管理栄養士10数名を天塩に招き実際に試食してもらったのである。この結果、東京の小中学校の給食用に地場の魚介類を売り込むことに成功、砂カレイなどが出荷されるようになった。

 

「東京の管理栄養士に天塩観光をしてもらい、地場産品の販売にも結び付けていく取り組みは、観光を手段として使ったマーケティングの成功例」と佐藤教授は語る。

 

 様々な産業に携わる道民が観光にどう結び付けていくかという発想を磨いていくことも大事だが、それを誰がやるのか――「そこが一番難しい」と佐藤教授は指摘している。

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