震災による被害が続いているが、国をはじめ地方自治体や企業が復興・復旧に向け動き始めた中で、ファシリティマネジメント(FM)の重要性が高まってきている。FMとは、企業や地方公共団体が保有・使用する施設や利用環境を経営戦略的な視点から総合的かつて統括的に企画・管理・活用する経営活動のこと。日本ファシリティマネジメント推進協会の坂本春生会長にFMのポイントを聞いた。(写真は坂本春生会長)
  
――FMの考え方は、国内であまり知られていない。
 
坂本 米国から24年前に日本に導入されたFMの考え方は、これまで建築や設計と言った供給サイドで発展してきた。しかし、本来はファシリティを使う側、つまり病院や大学、役所、会社などの需要サイドのためのマネジメント手法。
 
 私は、昨年6月に会長に就任したが、私の与えられた最大の使命は、FMという言葉を社会の常識語にして一般の人にもわかりやすく普及させること。FMの広報ウーマンになるのではなく、FMの概念を把握した伝道師になることだ。
 
――FM普及のネックになっているのは何だと考えますか。
 
坂本 FMを巨大な象に例えると、建築の専門家は象の頭がFMだと言い、オフィス環境の専門家は胸を触ってFMだと言う。巨象の全体像がなかなか分からないことがFMのネックになっている。
 FMの素人にも考え方を広めることが大事で、それこそが需要サイドに普及させていく鍵になると考えている。
 
――経営には4つの資源があるといいます。人事・財務・情報・ファシリティ。ファシリティとは土地や建物、オフィス、設備、環境などを示すが、この経営資源が十分に生かされていないと――。
 
坂本 ファシリティについて旧来型の施設管理が主流だが、例えば公共施設では少子高齢化による需給バランスの変化やバブル期に建てられた大量のハコモノが老朽化して多大なメンテナンスコストが掛かったり、あるいはオフィスでは時代の変化とともにユニバーサルデザインや環境対策なども不可欠になり、こうした多大なニーズを旧来型施設管理では対応できなくなっているのが現状。
 
 それなのに、多くの組織ではファシリティの重要性に気が付いていない。それが最大の欠陥ではないか。
 
 経営資源である人事も財務も情報も必死で対応しているのにファシリティについてはおろそかになっている。戦略的な経営革新を図っていくにはFMは最強の切り札になるだろう。
 
――日本の組織は縦割りで情報は縦に流れていくが、ある意味でFMは組織に横串を差す考え方に通じる。
 
坂本 千葉県佐倉市は自治体として早くからFMを導入、公共施設のデータを一元化して効率運用を行っている。今回の大震災でも被害を受けたが、FMを導入していたために素早い震災対応が可能だったという。
 
 公共団体では行政、病院、学校、保健所など縦割りで部分的な最適を求めるトレンドが働くが、FMの考え方はそれらを公共施設として一元的に俯瞰的に運営でくる利点がある。

 事業仕分けという言葉を昨年良く耳にしたが、私はこれは主観的な部分最適解を求める考え方だと思う。FMはそうではない。FMは客観的な全体最適解を求める考え方だと思う。ファシテリィのデータを見える化して一元管理していけば、“想定外”ということを防げるのではないか。


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