【人ものがたり】物流業界からパティシエに転向した川原大治さん(45、もりもとグループ・北のアトリエ職人)

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「キリ クリームチーズ」を使った「第15回キリ クリームチーズコンクール」(2023年10月開催)のファクトリー部門で最優秀賞を受賞した、もりもと(本社・千歳市)グループのパティシエ、川原大治さん(45)が、クリスマス商戦を前に気を引き締めている。受賞を経て、今年は、自身が考案したチーズケーキで、クリスマス商戦に臨んでいるからだ。(「キリ クリームチーズコンクール」ファクトリー部門で最優秀賞を受賞した川原大治さん)

1979年生まれ、45歳の川原大治さんは、もりもとの「イオンモール平岡店」でパティシエとして働いている。入社20年を超え、ベテランの域に達しているが、普通のパティシエとは違う、一風変わった経歴がある。札幌市生まれの川原さんは、高校を卒業して物流会社に就職した。食品倉庫でフォークリフトを運転、荷物の積み降ろしなどに従事していたが、ある時から、「手に職を付けたい」と考えるようになった。6年間を区切りにその会社を退職、新たに選んだのが、パティシエへの道だった。製菓の専門学校からパティシエの道に進む人が多い中で、異色のルートを辿った。

(写真は、ケーキ作りに取り組む川原さん)

 川原さんは、高校時代にケーキ屋でアルバイトをしたことがある。その時に、身近に触れたケーキ作りの感触が、「自分もやってみたい」という思いに繋がった。手先は器用ではなかったが、経験を積めば技術を磨いていけるとも考えた。もりもとに入社したが、下積みを覚悟して、自らパート社員の身分を選んだ。

 最初は、「山の手店」に勤めたが、主な仕事であるフルーツのカットや材料の計量で、ケーキ作りの基本を覚えた。「北15条店」に異動してから、ケーキ作りの幅が広がり、先輩から手ほどきを受けながら、毎日同じ作業を繰り返していたが、日に日に上達することを体感。ひと通りケーキ作りができるようになった10年目で、社員になった。

 腕を磨いてきた川原さんは、実力を試してみたいと、コンクールに挑戦を始めるようになる。しかし、札幌や全国の大会にエントリーしても、書類選考で落ちることが続いた。そして、5回目の挑戦となった「第15回キリ クリームチーズコンクール」で、全部門合わせて160人を超える参加者の中から、ファクトリー部門で最優秀賞を獲得した。このコンクールは、2回目の挑戦だった。

 受賞作品は、「モォモォバターサンドfromage milk」。「北海道の酪農を応援したいというテーマで作りました。バターサンドの表面を牛柄にして、キリ クリームチーズと道産のバターをふんだんに使って仕上げました」と川原さん。審査員から好評価だった。
「キリ クリームチーズコンクール」は、プロのためのコンクールでレベルは高い。もりもとには、多くのパティシエが在籍するが、このコンクールでは、2位までが最高だった。川原さんは、「ここまで来るのに自分なりに苦労したので、うれしかった。賞を獲得して仕事にも自信がつきました」と素直に喜ぶ。

 コロナ禍で、こうしたコンクールも中止となっていたため、社内的にも久々の挑戦を応援しようという雰囲気があった。受賞から1年、今年のクリスマスシーズンには、川原さん考案の「MoMoフロマージュ~雪降る朝~」もライナップされた。ミルク感たっぷりの濃厚なチーズケーキで、朝日に照らされて煌めく北海道の大地をイメージしたという。特別なクリスマスを、ケーキで楽しんでもらいたいという強い思いで開発した。

 今後のケーキ作りについて、川原さんは「お客さまが見てワクワクして、味もしっかり届けられるケーキを作りたい。コンテストは、私自身の勉強にもなるので、さらに経験を積んで挑戦したい」と話す。異色の転職から20年、コツコツと技を磨き上げてきた川原さんが、この道を目指す若者たちにこうアドバイスする。「最初は、毎日が同じ作業で飽きてくるかもしれません。その中で、自分なりの工夫を加えていくことが大切です。どんどん上達していくことが、自分なりに分かれば、自信に繋がります。うまくいかない時は、その原因を考えて、次はこうやってみようと。その繰り返しです」

 川原さんは、質問にも丁寧に答えてくれた。決して能弁とは言えない控え目な姿勢が、印象的だった。趣味は特にないというが、休日にはケーキの専門書を読み、感度を養っている。一日一日を積み重ねてきた職人の矜持が、物静かな川原さんに宿っていると感じた。

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