札幌国際観光元会長の藤江彰彦氏(77)が、四国八十八ヶ所霊場をひとり歩きした遍路の記録を綴った『生きることは歩くこと 歩くことが生きること!』(幻冬舎ルネッサンス刊)を上梓した。ひとり歩きで出会った様々な人との触れあいや歩くことによって体力が回復していく様を克明に描いている。25年前から毎日詠み続けている短歌も札所ごとに織り込まれており、八十八ヶ所のひとり歩きを通して生きること意味を問うている。(写真は、自著を持つ藤江彰彦氏)
 
 藤江氏は、真言宗東寺派三石山円昌寺の次男として生まれた。円昌寺は淡路島から移住してきた祖父が開創した寺で、寺の周辺の山々には新八十八ヶ所霊場が設けられ、藤江氏は子どものころから八十八ヶ所霊場には特別の思いを抱いていたという。
 
 寺は長男が継ぎ、次男だった藤江氏は浦河高校から北大へ進学したが、縁があって札幌国際観光を設立した杉野重雄氏と出会い北大を中退、ホテル業に身を投じることになる。
四国遍路の思いを抱きながらも日々の仕事に追われ、まとまった休みも取れないため夢は夢のまま半世紀以上が経過。
 
 藤江氏は札幌国際観光の社長、会長として経営に当たっていたが2007年に民事再生法を申請し身を引くことになる。73歳になっていた。
 
 60歳ころから血圧が不安定で不整脈も日常化、破綻によって取引先などに迷惑をかけた負い目もあって一時は四国遍路を諦めかけたこともあったという。
 
 75歳になり、「今行かなければ夢のまま終わってしまう」と考え直し、行き倒れを覚悟して遺言を書き残し旅立つ決意をする。
 
 かくして81日間の四国ひとり歩き遍路が遂に実現する。持参した薬は、血圧降下剤や精神安定剤、睡眠導入剤など百錠を超えた。
 
 藤江氏は「歩き切るのは不可能だろうと思っていたが、毎日歩くことが逆に命を守ってくれることに気づいた。本のタイトルは体の奥から出てきた本音の言葉なのです」と言う。
 ひとり歩きの遍路の毎日の中で、同じくひとり歩きをする高校生や重い糖尿病を患っている人、ガンと闘いながら歩き遍路を続けている人など多くの人との出会いがあった。藤江氏は、その人たちとの出会いや札所巡りの合い間に詠んだ短歌を折り込んで昨年12月に上梓(価格は1600円+税)。全国の主要書店で販売している。
 
 記録を整理した段階では500ページを超え、詠んだ短歌も1600首に及んだが、本にするため344ページに圧縮、短歌も370首に厳選した。
 
 ホテル業に長く携わっていた藤江氏が、四国のおもてなし文化に深く感動する場面も出てくる。「自らの反省もありますが、ホテル業再生の真髄はどこにあるのかが分かったような気がします」と藤江氏は語っている。



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