公益財団法人コープさっぽろ社会福祉基金(理事長杉岡直人氏=北星学園大学教授)は、地域福祉活動として高齢者や子育て世代が気軽に集える居場所づくりを実践している登別市のNPO法人「ゆめみ~る」の山田正幸副理事長(75)を招いた福祉講演会を札幌市内で開催した。山田氏は「地域福祉の肝は居場所づくり」として5年前に地域の町内会有志とともに地域食堂を開設、地域のネットワークが広がっている実践例を紹介した。(写真は、講演する登別のNPO法人「ゆめみ~る」山田正幸副理事長=2013年10月24日、TKPガーデンシティきょうさいサロンにて)
山田氏は現在、登別市の連合町内会会長を務めている。新日鉄室蘭に勤務していたころから地域活動に取り組み、登別市の連合町内会長を通算で30年近く経験している。市の社会福祉協議会にも積極的に関わり、実践計画「きずな」を策定、その中で高齢社会の大きな問題として分かったことは①人と話す機会がないこと②行くところがないこと③足(交通機関)がないこと――の3つだったという。
独居老人が1日にどのくらい話すかの全国調査では、平均2分40秒という統計が出ている。しかし、これは1年間を平均した会話時間で実際には誰とも話さない日が何日もある。
登別市の地域福祉実践計画「きずな」では地域の社協が中心になって「人生が楽しくて元気がでるサロンを作ろう」(山田氏)と各町内会が取り組み、まもなく40ヵ所のサロンができることになっている。
山田氏らが住む鉄南地区には8つの町内会があり1300戸が暮らしているが、閉鎖されたコンビニの跡を使って設置したのがサロンの役割を果たす地域食堂「ゆめみ~る」。ここを運営するNPO法人を100人の賛助会員を集めて設立、2008年11月に開業した。1階はNPOの会員らで作るそばや定食を出す食堂、2階は子育て世代や高齢者が気軽に集まれるサロン。コンビニ跡を借りて改装するのに約1200万円が必要だったため収入が必要ということで有料の食堂を始め、2階のサロンは無料開放している。
食堂で働く地域住民も無償では長続きしないため核になる3人には1時間300円を支給、そのほかの7人には200円から100円を対価として払い、多い人ではひと月に4万円程度の収入にもなるという。
山田氏は「地域食堂は儲けるためではなくて来る人が気軽に好きな時間だけいることができるようにする居場所づくりの運営のために行っている。釣った魚や山菜、野菜類を提供してくれる人もいて安い価格で食事を出すことも繋がっている。地域で福祉に関心が強まり協力したいという人も増えている」と「ゆめみ~る」が地域の格好の居場所になっている実績を紹介した。
さらに配食事業にも取り組み現在は92世帯の高齢者に食事の宅配を行っている。「来たくても来ることできない人も多い。そういう人たちにも手を差し延べて、配食の際には必ず声をかけ異変があれば離れて暮らす家族に知らせるようにもしている。地域の孤独死を防ぐ効果もあって実際、倒れていた人を発見したこともある」(山田氏)。
もっとも、運営はそれほど簡単ではなく昨年は赤字に。「7万円の家賃を払えない月もあった。11月から食事を50円値上げして何とか家賃を払えて収益をトントンにして居場所づくりを継続していきたい」と山田氏は語っていた。
講演後には参加者から持続性のある地域福祉活動のポイントは何かという質問もあって、山田氏は「今週は何をしよう、来週は何をするなどと計画を立てると必ず行き詰まってしまう。こちらからお膳立てするよりも、サロンなどに集まってくる人たちが勝手にアイデアを出してくれた方が長続きする」とヒントを出していた。