コロナ禍を経て、地域に根差した信用金庫の役割が高まる一方、北海道の全域で展開する地方銀行、第二地方銀行と信用金庫の連携は、広域分散型の北海道では避けて通れない課題になっている。そんな状況下、昨年6月に一般社団法人北海道信用金庫協会(事務局・札幌市中央区、以下・北信協)の新会長に就任したのが、大地みらい信用金庫の遠藤修一理事長(66)。3期6年務めた増田雅俊会長(稚内信用金庫理事長)に代わり、道内信用金庫の取りまとめ役を担うことになった。会長就任から半年、遠藤会長に地域と向き合う姿勢や令和の時代に求められる信用金庫像について聞いた。〈えんどう・しゅういち〉…1956年中標津町生まれ、66歳。1978年3月小樽商科大学卒、同年4月根室信金(現大地みらい信金)入庫。2001年6月理事就任。常務理事、専務理事を経て2010年6月理事長に就任。2018年6月から北信協副会長を2期4年務め、2022年6月北信協会長。大地みらい信金の理事長が、北信協会長に就くのは、北村信人氏(2008年6月から2012年6月まで2期4年在任)以来。
ーー道内20信用金庫の2022年9月仮決算の全体状況を、どう見ていますか。
遠藤 各信用金庫ともに、安定感のある良い仮決算だったと思う。このままいくと、2023年3月本決算も安定基調でいくのではないかとみています。長い蓄積の中でそれぞれの信用金庫は、決算を重ねてきました。25年前の北海道拓殖銀行破綻以降、北海道経済の構造的問題や厳しい状況に備えて、しっかりと前向きに取り組んで蓄積しており、引当率は厚くして備え続けています。利回り関係でいえば、貸出金の金利がずっと低下基調できていましたが、その流れが少し和らいできました。
ーー貸出金利回りの低下に歯止めがかかっていると。
遠藤 貸出金の利回り低下が、下げ止まってきました。事業性融資や住宅ローンを中心とした個人向け融資に各信用金庫は、バランスよく取り組んでいると思います。有価証券の運用に関して、2022年は特別な年でした。1年前に、ロシアのウクライナ侵攻を誰も想像すらしていなかった。そのことによってサプライチェーンの混乱、アメリカの政策金利引き上げも行われました。ここまで、急ピッチで米国がインフレ抑制のために金利を上げるなど、誰も想定していなかったでしょう。当然、運用面で日本中、世界中の金融機関が影響を受けています。
インフレに関していえば、日本の経済的な体温が少し上がることは、悪いことではありません。経済団体は賃金上昇を盛んに言っていますが、それが日本全体に及ぶと思う人は少ないかもしれません。日本の人口約1億2000万人のうち、年金生活者と中小企業で働く人は約6000万人います。大企業で働いている人は、それよりずっと少ない。大企業中心に賃上げがあったとしても、それが日本全体に波及するでしょうか。
地方に住んでいると、大きな旗が振られている方向は、何となくありそうだと思いますが、私たちの生活実態から捉える方が現実的です。そうすると、日本がインフレになるのはなかなか難しい。根っこには、バブル以降の長年にわたる構造問題があって、その上に高齢化社会や地方の衰退という課題が積み重なっています。現状よりは、多少は物価が上がるでしょうけれど、米欧のようなインフレにはならないのではないでしょうか。
ーー金利面の急激な変化は起こらないと。
遠藤 信用金庫は基本的に、預金をお預かりして、融資した以外の余裕資金を有価証券を中心とする運用に回しています。地域の取引先のことを考えると、一番安定的なものを主体に運用しています。同じ有価証券でも株式系と債券系がありますが、信用金庫は歴史的に債券中心で運用しています。少し金利が動くと、評価損益が出るかもしれませんが、経営の相当な打撃になるとか、そこまで心配しなくていいのではないか。逆に、少し勇気を持って買っていかないといけない可能性もあります。道内信用金庫全体の自己資本額は、約6400億円になっています。こうした自己資本の厚みがあるので、多少の金利変動があっても地域にご心配をかけるようなことにはならないと思っています。