2023年が明けた。コロナは4年目に入り、ウクライナ問題、インフレ、SDGsなど、さまざまな課題が逆相乗効果を引き起こす状況が今年も続く。荒波の中で、希望の羅針盤となるのが、先達の時代を読む眼だ。食品スーパー、アークス(本社・札幌市中央区)の横山清社長(87)は、食品スーパーという生活に密着した業界に60有余年身を置きながら、経済の変化を直に経験してきた。横山社長が読み解く2023年とは、どんな1年なのか。(写真は、インタビューに答えるアークス・横山清社長)
「食品スーパーに携わるようになって60数年間だが、いつの時代もそれなりの危機感を持って対応してきた。そのことを振り返っても、2023年の経済は、積年の課題が顕在化するリスクの高い1年になるだろう。コロナ、戦争、インフレ、物価高、制度変更、SDGsなど、数え上げただけでも課題は山積みだ。一つひとつは単発の課題であっても、それらの課題がダブル、トリプルに重なって襲ってくる逆相乗効果が今、起きている。これまでとは違う危機感を持って対応しなければならない」
「コロナで盛んに言われた三密回避が象徴的に示すように、行動変容が今や社会に浸透した。先ほど挙げたさまざまな課題が、行動変容をさらに加速させている。その結果として、人々の価値変容が起こっている。グローバル経済が正しいとされたが、サプライチェーンが寸断され、世界中から安くモノを調達することは、SDGs的に言えば略奪になり、現地の人たちの労働を搾取していることにも通じる側面も持つようになった。結果として、不買運動も起きかねない。価値変容によって、都市と地方の在り方も変わってきているのは、皆さんご承知の通りだ」
「食品スーパー業界は、これまでも行動変容や価値変容を経験してきた。石油ショックの狂乱物価の時代には、お客の財布の紐が堅くなり、来店客数が減少した。これが行動変容だ。お客は安いものを求めるようになり、『マグロの刺身が安かったから良かったね』と価値変容に繋がった。
今の価値変容はさらに人間の感性部分にも深く入り込んでいる。『マグロの刺身は安かったけど、レジで20分も待たされた。安く買ってもこんなに並ばされるのは不愉快だ』ということもある。逆に、商品にはそれほど変化がないが、『レジ待ちをせずサービスも良く、不愉快な目に合わなかった』ということもある。これらが、今の価値変容の一端と言えるだろう。アークスグループは今年、お客の価値変容に対応した店づくりを積極的に行っていく」
「私たち食品スーパーに携わる企業にとっても、足し算で売り上げを伸ばすことが、必ずしも正しい時代ではなくなっていることを再認識しなければならない。足し算とは、店舗の拡大であり、M&Aを含めてグループを増やしていくことだ。実際に足し算による数のメリットで経営の安泰が図られたかというと、むしろ逆の結果だったことは歴史を見れば一目瞭然だ」
「1990年代から2000年代初めにかけて、流通は5大小売業が大きな存在感を放っていた。しかし、内実は2強3弱と言われ、実際に3弱は元の姿を変えてしまった。生き残った2強も安泰ではない。2強の中でも最強とされた企業グループでさえ、GMS(総合スーパー)に関して、都市部に経営資源を集中させる戦略を取り始めている。こうした傾向はゆっくりだが、確実に進んでいくだろう。それが顕在化するのが、2023年だと私は位置付けている。業界の常識と言えるような価値が少しずつ変わってきており、その変化に対応した行動を起こさなければ生き延びられなくなっている」(以下、次回に続く。構成・本サイト)