日本最東端の根室市。人口約2万4000人のこのマチで、地場のコンビニエンスストアを展開しているのがタイエー。セイコーマート(本社・札幌市中央区)のグループであるハセガワストア(同・函館市)のエリアフランチャイズとして商品供給を受けているが、資本関係はなく、経営は自立している。セイコーマートやセブンーイレブンが合計18店舗ひしめく激戦地で、貫いているのが「大手ではできないことをやる」(田家徹代表取締役、62)。そのユニークな戦略とは。(写真は、「タイエー千島本店」)
タイエーは、1931年に創業した商店がルーツで、今年で創業91年目。田家徹さんの実父(2代目)は、一時根室漁協に勤めていた縁もあって、北洋漁業最盛期に船積み食料の供給を拡大、「フードストア田家」の基盤をつくった。3代目の徹さんは、札幌の食品スーパーに勤めた後、根室に戻り、この店舗をベースに1989年に根室市内初の24時間営業の本格的コンビニを始めた。
「コンビニを始めたきっかけは、函館のコンビニ、ハセガワストア(以下ハセスト)長谷川文夫会長(86)との出会いでした。当時、函館で面白いコンビニがあると聞いて会いに行きました。見ず知らずの私に、会長は夜中の3時まで様々なことを教えてくれた。まだ27歳だった私を、よく信用してくれたと思います。会長との出会いがなければ、今のタイエーはなかったと思う」と田家さんは語る。
「本気でコンビニをやるつもりなら3ヵ月うちにきて修業しろ」との会長の命を受け、単身函館に行く。修業を続けるうちにコンビニの時代を実感、ハセスト名物「やきとり弁当」のノウハウも習得して、暖簾分けの形で根室でコンビニを始めた。最初に出店したのは「曙店」、その後「千島本店」をコンビニに転換し、「清隆店」、「昭和店」、「西浜店」と店舗を増やしていった(後に「清隆店」、「昭和店」は閉店し、現在は4店舗を営業)。
コンビニに転換するにあたり、社名と屋号を「タイエー」に変更したが、これも長谷川会長の提案だった。ロゴマークもハセストと同じ「にこチャン」を使用、違うのはコックの帽子の文字が「H」から「T」に変わっているだけ。「多くの人が会長に教えを請うたと思いますが、ここまで助言・指導を受けたのは、私だけではないでしょうか」と田家さんは自負心を覗かせる。
(写真は、低価格で提供している水産品)
長谷川会長の薫陶を受け、徹底してきたのは、大手コンビニとの差別化。「自前で焼きたてパンや惣菜を手掛け、コンビニでは扱わない水産品も揃えています。もちろん、『やきとり弁当』も大手ではできない差別化のポイントになっています」と田家さん。水産品は、田家さんと子息の2人が毎日漁協で仕入れてくるものだ。田家さんは、朝7時の花咲市場のセリと朝9時の歯舞漁協でのセリに出かけ、子息は根室漁協のセリに行く。「セリでは、安くて良いものを仕入れ、その日に売り切ることを基本にしています。低価格で販売することを基本にしているので、皆さんから支持を得ています」と田家さん。コンビニオーナーが市場のセリで水産品を仕入れてくるのは、全国でもここくらいだろう。惣菜の人気は、根室のB級グルメ「エスカロップ」や茶碗蒸し。大晦日には茶碗蒸し1000個が、あっという間に売れ切れるという。
コロナ禍の影響を受けて2020年度の売り上げは減少したものの戻りつつある。2021年度は、サンマが近年に比べればよく獲れて、漁期も11月まで延びたため、花咲港のサンマ漁船向け船積み食料が伸びた。ただ、主力の「西浜店」は、根室と他地域との往来がまだ戻っていないため、影響を受けているという。
田家さんは言う。「大手コンビニとの差別化路線は間違っていないと思う。根室から他地域に進出することは考えていないので、地元のお客さまにご満足いただけるよう努力を続けたい。また、ネット販売も増やしていきたい」。道内市町村の人口比で2番目にコンビニが多いと言われる激戦地根室。その中で、「タイエー」はしっかりと地域に根付いている。最東端の地で味わう「やきとり弁当」は、格別だろう。
(写真は、千島本店内の「やきとり弁当」のコーナー)