HAC再生を担うチーム田村が発足、新社長はJALパイロット出身でも丁寧、低姿勢、気配り上手

交通・運輸

 経営難に陥っている北海道エアシステム(HAC)の新経営陣が31日の臨時株主総会で可決され新体制がスタートした。新社長に就いたのは7月10まで日本航空(JAL)監査役を務めていた田村千裕氏(63)。田村氏は、経営建て直しに意欲を見せ、安全運航を基本に民間企業として経営を成り立たせることを宣言した。総会後には株主を集めてHACの修正事業計画を説明したが、説明会後には率先して会場出口に立って参加した株主を見送るなどフットワークの軽さを見せた。(写真左は、株主を見送る田村社長=右端、写真右は会見での田村社長)
 
 株主への修正事業計画説明を終えた後、田村社長ら新経営陣14人が勢揃いして記者会見を行った。記者とのやり取りは約1時間に及んだが、田村社長は質問に対して丁寧に分かりやすく説明していたのが印象的だった。

 田村社長は、HAC社長を引き受けた理由についてこう語った。
 
「日本航空に30数年務め航空関係の仕事をずっとやってきた。最初はパイロット、それから企画関係を兼務しながら運航本部長、安全運輸面も経験した。最後には監査役として1年半務めた。こういう経験を生かす場としてHACの誘いを受けた。HACは、厳しい経営環境にあるが経験を生かせる場であると思い決断した。それに、私は北海道で生まれて大学卒業まで北海道にいたこともあり、郷土に対する愛着がある。北海道のために何かできるのではないかということも動機になった。会社の将来性については今の体制で工夫をしていけば路線等の見直しもあるが、経営として十分成り立つ」と経営の舵取りに自信を示した。
 
 JALがHACの筆頭株主から降り、代わって道が筆頭株主になった昨年4月以降の新体制では、奥尻空港で起きた地上への異常接近という重大インシデントに続く機材故障や欠航で安全面、運航面の問題が露呈、利用者離れを招き2011年度末には資金繰りがつかず経営危機に陥った。
 
 田村氏は、HACの経営に関して、「経営状態が悪化したのは昨年の事業改善命令を受けた重大インシデント以来、機材の故障等で欠航が多発したことによって皆様の信頼を失った面があるからだ。それに新しいシステムを導入したことに伴って最初からうまく稼動していかなかったこともある。そういったいくつか要因が重なったことで大きな赤字、減益要因になった」との認識を示し、「安定した運航でお客様の信頼を取り戻して、利用率を上げていくことができれば民間企業として成り立つと考えている」と語った。
 
 さらに、「一番大事なのは運航、整備、客室、空港現場が日常の仕事をきちんとやっていけるかどうかということ。会社は、収支的にはいろんな状況があるが、その中で日常の運航を淡々とやっていけるかどうかが大きなポイントになる。HACでも、今後苦しいことがあるが、何とか日常の運航の安定だけは保っていけるようにしたい。それが搭乗率の向上につながっていくと確信している」
 
 田村氏が最も強調したのは、安全に関しての場面だった。
 
「一番大事なのは経営者の意思。経営者が安全について強く社員に正確にメッセージを伝えていけるかどうか。次は、現場の運航整備をはじめとしてオペレーションに関わっている人たちがどれだけ自分の仕事に対してプロとしての意識を持ってやっていけるか。会社としてやらなければいけないのは教育とか研修、情報の提供だ。日常的にタイミングを外すことなく続けていけるかどうかという地道な作業が安全に繋がる。私は、30年間ほど飛行機に乗っていたので、その経験を生かしながらHACの安全レベルをできるだけ上げていくようにする」
 
 田村氏の表情は柔和だが、記者との受け答えは丁寧でしっかりした説明責任を果たす姿勢が窺えた。記者会見の前に行われた株主への修正事業計画の説明では田村社長自ら進行役をこなし、説明会終了後には会場出口で一人ひとり株主に礼を尽くすなど、予想していなかった行動に慌てて他の新役員も出口に詰め掛けるシーンもあった。

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