北海道の若手経営者を育てようと官民協同で取り組んでいる「北海道経営未来塾」(塾長・長内順一未来経営研究所社長)第5期の第1回講演が22日、札幌市中央区の「札幌パークホテル」で行われた。5期生37人を前にアインホールディングス(本社・札幌市白石区)の大谷喜一社長が、『成長への挑戦』をテーマに約1時間講演した。(写真は、飛沫感染防止のアクリル板に囲まれて講演する大谷喜一・アインHD社長)
大谷社長は冒頭、目標を持つことの大切さを強調、「私は経営者として似鳥さん(昭雄・ニトリホールディングス会長)をずっと目標にしてきた。追いつけない目標設定によって自分を客観的に見ることかでき、今の状態に満足しないことにも繋がる。似鳥さんを目標にしてきたことは良かったと思っているし、今も目標だ」と話した。
大谷社長は、主力事業だった臨床検査事業から調剤薬局事業に切り替えたことについて、「1990年代初めの頃、臨床検査のマーケットは約5000億円で成熟していた。当社はその中の20~30番目。どんなに頑張っても日本一には決してなれないし、成長していくことも難しいと考えた。当時伸びていたのは、調剤薬局。その頃はまだ全国の医薬分業率は15%ほどで、これから調剤薬局のマーケットが広がっていく時期だった。私は薬剤師なので調剤薬局なら知識や人脈が生かせる」と調剤薬局の事業を切り替えていったきっかけについて話した。
その上で、「成長拡大が見込めるマーケットを選び、競争しても勝てる事業を選ぶことが重要だ。私は常に『競争したらだめだ』、『大きな相手なら勝てない』と社内に言ってきた。逃げて、逃げて違う分野に進出した方が成功する確率は高くなる」と塾生たちに経営の勘所を伝えた。
また、業界トップになるためにM&Aに積極的に取り組むことも大切だと訴えた。「金融機関の借り入れだけではM&Aによる成長には対応できないので、ファイナンス(資金調達)が必要になる。そのためには上場しなければならなかった。私は売上高5億円の頃から上場を目指していた。幸い、ファイナンスについては大学時代から手掛けていた株式投資の知識が役に立った」と話し、企業が安定して成長して行くには上場が良い手段であることを強調した。
97年の旧北海道拓殖銀行の破綻で経営危機に陥ったことに触れ、「40代半ばだった94年頃、臨床検査だけでは日本一にはなれないと諦め、調剤薬局1号店を出した。(調剤薬局が)競争の少ないマーケットだということに気づいていたが、そこにすべての資金を投入する自信がなかった。そのため多角化を決め、ホームセンター、家電量販店、ドラッグストアを始めた。既存の臨床検査事業と調剤薬局事業も含め5業種にもなり、これでは当時の経営体力で持たないはことは明らかだった」と振り返った。
しかし、「この頃までずっと成功し続けていたので、多角化しても大丈夫だという気持ちが強かった。一つの事業では日本一になれないが、5つくらいの集合体なら日本一になれると社内外に訴えていた」と話した上で、「今だからこそ言えるが、私は『シナジー』を強調する経営者は信じない。この言葉を使い出したら経営者失格だ。事業拡大にシナジーなどない。シナジーの計算はそもそも成り立たないものだ。私自身がそうだったのでよく分かる」と自戒を込めて振り返っていた。