アインホールディングス(本社・札幌市白石区)の大谷喜一社長が6月28日、札幌証券取引所で個人投資家向け会社説明会を行った。2019年4月期決算の概要を説明するとともに20年4月期の計画や中期的な成長戦略を語った。大谷社長が語った「アインHDの今とこれから」のダイジェスト版最終回を掲載する。(写真は、2018年12月1日に開業したアインHD子会社などが運営する旭川医大の敷地内薬局「緑が丘テラス」=2018年12月1日撮影)
「成長戦略のもう一つは、『アインズ&トルペ』の物販店展開で、この事業は当社の祖業でもある。この事業から当社はスタートしたが、郊外型のドラッグストアと戦っても規模が違い過ぎて勝てないため札幌や東京などの中心部だけに出店している。1店舗当たりの売り上げも大きく収益力は高い。この事業が非常にうまく行き出した。敷地内薬局と物販の組み合わせで拡大していくのが当社の成長戦略だ」
「19年4月期の調剤薬局部門の自前での出店は敷地内薬局を含み23店舗。敷地内薬局は面積が従来の店舗よりも大きく1店舗当たりの売り上げも大きい。M&Aでは昨年良い案件がたくさんあったため、M&Aによる店舗数の増加は134店舗になった。予定では自前とM&Aを合わせて100店舗増だったが実績は157店舗になった。『アインズ&トルペ』は、計画通り7店舗を出店、20年4月期は15店舗を出店して物販事業も一気に加速させる」
「調剤薬局のM&Aで心配なことは、高値買いをしているのではないかということ。その指標の一つにEV(M&A買収価格)/EBITDA(営業利益+減価償却費)がある。実際にキャッシュが入ってきてその何倍で買っているかの指標だが、高値買いというのは10倍くらい。当社はおおよそ5倍前後で買い続けており、非常に良い案件を買収していることになる」
「旭川医大の敷地内薬局はオープンして半年経ったが、順調に展開している。当初の売り上げから今は倍くらいになった。東大の敷地内薬局は4月にオープンしたが毎日のように伸びている。来年4月には、数ヵ所の大学病院で敷地内薬局がオープンするが、医薬分業をしていなかった大学病院もあり、一気に売り上げが伸びるところもある。医薬分業をしていた大学病院でも門前薬局から徐々に敷地内薬局に患者がシフトしている。今後も大学病院での敷地内薬局は増えていきそうだが、公的病院の敷地内薬局や個人病院もターゲットにしていく」
「敷地内薬局の利益率は門前薬局よりもやや低いと言われているが、この1年間の実績から見るとそうとも言えない。私は、今後ほとんどの調剤薬局が敷地内にシフトされるのではないかと見ている。マンツーマンでクリニックとの繋がりが深い個人薬局は残ると思うが、大きな病院の前にある調剤薬局がこのままということはないだろう。今年は、まさに薬局の在り方が変わっていく最初の年になっている」
「前述したように薬剤師の採用は16年に375人だったが、19年は257人しか採用できなかった。薬局就職者に占める当社の入社率は2・5%。薬剤師が全員調剤薬局に入るのではなく、ドラッグストアや製薬会社、病院などにも勤めるが、年間約5000人が薬局に勤めると見られている。当社はこれまでに薬局就職者の10%ほど採用していた時期もあった。来年春には400人の採用計画を立てている。『昨年は257人しか採用できなかったのに本当に400人も採れるのか』と必ず聞かれる。しかし、採用できると思う。なぜなら、薬局の在り方が変わっていくため、薬剤師の志望先も変わってきたからだ。大学などの敷地内に薬局設置のために投資するのは1店舗当たり10億円ほど。それを6年くらいで回収できる仕組みをつくっていかなければならない。そして薬剤師を何十人も送り込まなければならない。財務体質と人材の2つが揃っていなければ敷地内薬局の競争は勝ち抜けない」
「危機感をもって私が陣頭指揮を執っているのもそのためだ。時代は明らかに敷地内薬局になってきた。そういう方向になっていくことを学生の皆さんもわかってきた上、病院の敷地内薬局で高度な薬を調剤してみたいという意欲のある学生も多い。このため既に600人近くが当社への入社を希望している。昨年の今ころが150人くらいだったことを考えると明確に薬局の状況が変わってきたことがわかる。国家試験もあるため最終的に何人が採用できるかはわからないが、少なくとも400人は確実に超えて500人を少し超えれば良いと思っている。その規模で採用を3年間続ければ、企業間の格差がますます付いてくるだろう」
「財務面について言うと、当社は2年前に公募増資して約276億円を調達した。これが現在のネットキャッシュ350億円に繋がっている。キャッシュを次の成長戦略に使うことに何も問題がない。20年4月期は、調剤薬局事業で2668億5000万円、物販は15店の出店で285億円を売り上げ、トータルで19年4月期比109%の売上高3003億3000万円を計画、初めて3000億円を突破させる。本当は110%の二桁増を狙いたい」(終わり)