札幌信用金庫は12日、創立90周年記念経済講演会を東京ドームホテル札幌で開催、ジャーナリストの嶌信彦氏が「世界は10年ごとに大きく変わる。東日本大震災が日本や世界の大きな時代の変化を招来する契機になる」と述べ、日本の再成長は可能と講演した。会場には約600人が参加、嶌氏が切り取る時代観に興味深く耳を傾けた。(写真は後援する嶌氏)
嶌氏は、90年から始まったグローバル社会の10年、テロとの戦いで世界の経済ルールが米英中心に変わった2001年以降の10年がようやく終わり、本格的な21世紀のルールづくりが始まる10年と見られていた矢先に起きたのが、東日本大震災と福島原発だと指摘。
原発については、5月末から始まるフランスでのサミットで菅首相が「なぜFUKUSHIMAが起きているか」を世界に示すことが試されているとし、原発に対する日本の考えを示さなければ笑いものになるだけと厳しく言及した。
そのうえでエネルギーへの考え方を変えなければならず、「3つのE=エネルギー、エコノミクス(経済)、エコロジー(環境)というそれぞれ矛盾する課題をどうバランスさせていくかが問われている。3つのEとともに個人のライフスタイルも変えていくことが大事」と述べた。
また、戦後の驚異的な経済成長や明治維新などを引き合いに、「頭では認識するが体で認識しないと心の底から頑張ろうと思わないのが日本人」とし、幕末の黒船による外圧、戦後いたるところにあった戦火の爪あとが日本人の頑張りを引き出したことを掲げ、今回も必ず再成長できるとした。
モノづくりに関して、「先進国も途上国も作れない製品を作ってきたのが日本で、その底流には科学と自然を融合させてモノづくりを発想する精神が脈々と流れているから」と分析。
嶌氏は、その好例として小惑星探査機『はやぶさ』を挙げ、開発者たちは『はやぶさ』が宇宙で行方不明だったときに、イオンエンジンの重要部品である中和器と同じ名称の岡山県真庭市の中和神社に祈願に行ったことを紹介し、「こんなことをする欧米の科学者がいるだろうか。和の心というか、日本人の大和心のようなものが、日本の底力になっているのではないか」と語りかけた。
東北はモノづくりの拠点であるとともに、何百年と続いたモノづくりの伝統があり、南部鉄瓶や天童の木工、山形のニット製品などが息づいていると紹介。オバマ米大統領の就任式でミシェル夫人がはおったガテーィガンは、佐藤繊維のニット製品だったように世界に誇れるモノづくりの拠点とした。
また、今後の消費の方向性について「これまでは男性、企業が先導してきたが、既に女性とシニアが先導する時代に入っている。今後の消費の方向性は間違いなく女性とシニア。そこに照準を絞った構想力で先進国も途上国もできないモノづくりを進めれば、日本は再成長できる」
最後に嶌氏は、「これからは知人ではなく友人を作ることが大事になる。知人は『損得』『担保』『ビジネス』『お金』で繋がっているが、友人は奉仕や品性で結びついており、頼れるのは知人ではなく友人。親友とは、『心を許せる心友』『深く付き合える深友』『真実の真友』ではないでしょうか」と結んだ。
東日本大震災で問い直され、再発見されているのがコミュニティの力。コミュニティこそ友人同士の共同体と言えそうだ。