寺島実郎氏が喝破 北海道の「創造的観光立国論」

経済総合

 北海道と北海道商工会議所連合会、札幌商工会議所の主催で『次世代産業フォーラム~地方創生の切り札を探る~』が29日、札幌市中央区の京王プラザホテル札幌で開催された。基調講演で一般財団法人日本総合研究所理事長の寺島実郎氏が『創造的観光立国論~観光を軸に北海道の活性化を探る~』をテーマに講演、参加した約550人は寺島氏の知的好奇心を揺さぶる話しぶりに聞き入っていた。IMG_8889(写真は、講演する寺島実郎氏)

 寺島氏は、今年6月にNHK出版から『新観光立国論―モノづくり国家を越えて』を出版しており講演の内容はそれに沿ったものが中心だった。寺島氏は、日本が持つ経済領域での優越性が崩れ、観光で中国人の爆買いに期待するという辻褄が合わないことに苦悩しているのが今の時代の空気だと主張。訪日外国人のうち華人・華僑圏のいわば連結の中華圏から半分以上が来ており、韓国を含めると4分の3がアジア圏。「これからもアジア圏から観光客が増え続けると文化摩擦も起こりかねない。台湾では『日本人にその覚悟があるのか』と聞かれることもあった」と紹介した。
 
 安倍首相がGDP600兆円を目標に掲げたことに触れ、「日本はこれまで自動車産業という一本足打法で成長してきたが、この産業以降のプロダクトサイクルが見えない。国産ジェットのMRJがまもなく空を飛ぶが、それだけでGDP600兆円は無理。サービス産業の高度化が不可欠だ。その中核になるのが観光。観光を力強い産業の柱として底上げしないと日本を豊かにするのは難しい。インバウンドを増やせば良いというほど簡単なものではない」と語り、観光の産業化を提唱。統合型リゾートはそのツールになる考え方と指摘した。統合型リゾートは、カジノありきの考えではなくリゾートを組み立てる統合という意味で、統合という絵を描けるか地域の力が試されることになる。
 
 寺島氏は、観光の産業化を促進する事例として米国の2つのケースを紹介。ひとつはUBER(ウーバー)と呼ばれるスマートフォンでタクシーを呼び出すアプリ。GPSと連動しており双方向システムで深夜に女性一人でも安全性が担保されるようにしたビッグデータ活用のアプリ。「ビッグデータとどう関わるかを考えないと頓挫する時代。欧米ではUBERが急速に浸透しているが、日本では規制があるため実用化に壁がある」(寺島氏)として、ビッグデータを観光に活用するためには規制の壁をどう打ち破るかが不可欠と示唆した。
 
 もうひとつのケースは、Airbnb(エアビーアンドビー)の民泊の仕組み。京都ではネットベースで万単位で民泊が浸透しているという。こちらも日本では規制に触れるが実態は先行しており、2020年の東京五輪に向けてさらに実態は進行していくと考えられる。これら2つのケースは次世代ICT革命の象徴的な成功例。日本と北海道の観光立国を進めるためには、こうした次世代ICT革命を阻害するような岩盤規制の撤廃が不可欠と言えそうだ。
 
 寺島氏は観光を軸にした北海道活性化の方向として苫東に言及、「植物工場が動きメガソーラーもある。産業ツーリズムが期待でき、ツーリズムの質を高める大きなチャンスが苫東にはある。ジョイントベンチャーで新しいプロジェクトを創生させる可能性が高いのは北海道。物見遊山で観光客を集めるだけでなく北海道に行かなければならないというプロジェクトの物語性をいかに構築するかも知恵の出しどころ」と訴えた。   
 
 また、食と観光で先駆的な人材を育てる教育機関として第二の札幌農学校を創設するのも価値があるとした。「付加価値の源泉は惹きつける力だ」と寺島氏は結論付けていた。

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