一般社団法人札幌青年会議所(札幌JC)はNPO法人リンカーンフォーラム北海道の協力を得て、10日午後6時半から同8時半過ぎまで3月29日告示、4月12日投開票の札幌市長選挙候補者による公開討論会を開催した。会場となった札幌市中央区のかでる2・7には全座席の8割強が埋まる約450人が参加、候補者4人の主張に耳を傾けた。(写真は、公開討論会で政策を訴える4候補者)
候補者は着席順に、民主党推薦の前副市長秋元克広氏(59)、自民党推薦の元総務省自治大学校研究部長本間奈々氏(45)、共産党公認で同党道委員会副委員長の春木智江氏(56)、無所属の元衆議員議員秘書でベンチャー投資家、飯田佳宏氏(41)。着席順は、事前に抽選で決めたものだという。候補者4人が一堂に集まり、市民の前で政策を訴えるのは初めてで、各候補者はテーマごとに決められた持ち時間を使い参加者にアピールした。
コーディネーターを務めたのは北海学園大法学部講師の山本健太郎氏。山本氏は1978年生まれで今年37歳。東大経済学部卒、同大大学院を経て2013年から現職。同大では政治学、現代日本政治で教鞭を執る。山本氏がこうした公開討論会でコーディネーターを務めるのは初めて。
秋元氏は、人口減少や少子高齢化で札幌は転換点に来ていることを強調、「行政経験が豊富で地元に詳しい私だからこそこれからのマチづくりを担っていける」とアピール、本間氏は超高齢化、超少子化、若者たちの流出という3つの人口問題を抱えているとし、「総務省で18年間勤務し他の県や市への出向経験もあり多角的視点で札幌を見極めることができる」と他候補との違いを強調した。
春木氏は、市民に冷たい市政からの転換を訴え、「温かい医療介護福祉政策を実現し、介護保険では札幌独自の軽減策を導入する」などと語った。飯田氏は、「札幌オリンピックは失敗し市は大きな負債を抱え、市民が埋め合わせをしなければならなくなる。これはギリシャの状況を見れば明らかで、招致を速やかに撤回すべき」とした。
医療や福祉、子育て環境の改善などについては、春木氏の主張だけがより生活者に近い視線が感じられたものの各候補とも大差がなく似たり寄ったりの印象。また、公共事業についても、「上田市政は緊縮財政で極端に減らしてきた。財政的に余力があるのだからもっと公共施設などに積極投資すべき」と本間氏が述べると、秋元氏は「上田市政で市債残高は4500億円減った。今後も財政状況とバランスのとれた公共投資を続けるべき」と2候補の主張は程度の差としか感じられず、むしろ飯田氏の「公共投資に保守的であるべきだ」、春木氏の「不要不急の大型公共投資は抑制し、特養ホーム建設など生活密着型公共事業強化を」との訴えの方が分かりやすかった。
差異が際立ったのは地下鉄延伸問題と除雪問題。地下鉄延伸について、秋元氏は「当初から清田方面への延伸は計画されているが採算面で見込みが薄いとして国も認めなかった。冬季五輪招致で札幌ドーム周辺の土地利用が進み採算が見込めるようになれば議論する」と抑制的な考え。本間氏は「すぐにでも延伸を実施すべきだ。利用客を伸ばす方策を考え、北広島の三井アウトレットモールまで延ばせば向こうから乗る人も多くなる」と強調、「コストを抑えるためにミニ駅舎にしたり民営化も考えて財務効率化を」と持論を展開した。
春木氏は「市民、区民の要望を聞き市民の議論を経たうえで決めるべきだ」、飯田氏は「税金を使った延伸は反対。バスの充実とバス停留所のフード化を進めるべき。ただし民営化後なら現在の地下鉄への補助金70億円が浮くので延伸は構わない」と述べた。
除雪に関しては、本間氏が「町内会などが生活道路除雪で支出しているパートナーシッブ制度を廃止して市が全額負担することにすべき」と訴えたことに対して、「除雪のレベルアップは今のシステムでは無理。システム自体を作り直すことが必要。パートナーシップの廃止はレベルアップに繋がらない」とこちらはかなりヒートアップした議論になっていた。
コーディネーターの山本氏は最後に市民に訴えたいことを促すと、本間氏は「今の札幌市政の流れを断ち切り、新しい流れを創る」、春木氏は「安倍政権の悪政の防波堤になる」、飯田氏は「超高齢化社会に一歩でも備える市政を」、秋元氏は「(上田市政で)今までやってきたことをしっかり継続する」と訴えた。
国勢選挙も終わり、TPPや農政改革などの影響もあまりない札幌市長選には、これぞという焦点が見当たらない。それだけに4候補者の主張はかなり重複する部分がある。そのうえで今回の公開討論会から見えてきた4候補の個性をワンフレーズで表現するとこうなる。『決してハズレがなく期待を裏切らない』秋元氏、『4年間の雌伏の期間で期待を抱かせる』本間氏、『国政も地方政治も首尾一貫した共産党』の春木氏、『主張がいちいちもっとも』な飯田氏――告示まで19日、投開票まで33日、HHAIの中から頂点に立つのは果たして誰になるのか。