札幌市電が走る電車通りを西に進み石山通(国道230号線)を横切ってしばらく行くと、札幌市内で最古の鉄筋コンクリート造である「三誠ビル」(札幌市中央区南1条西13丁目)が見えてくる。竣工は1924年、大正13年。本サイトが不定期連載している「昭和のビルシリーズ」番外編として紹介する。(写真は、電車通り沿いにある三誠ビル)
(94年間の歳月が光沢を育ませた石の階段の手すり)
「三誠ビル」は、3階建てのこじんまりしたビル。通称・西屯田通りの基点となる場所に建てられた札幌の不動産会社、藪商事の旧本社ビル。戦後の財産税支払いのために売却を余儀なくされ、現在は三誠ビルとして94年の歴史を引き継いでいる。
(古き良き時代のオフィスビルを彷彿させる廊下=写真)
一見するとごく普通のビルで歴史の長さをあまり感じさせないが、正面3階にあるアーチ飾りや正面の各階窓に施されたモールディングと呼ばれる帯状の装飾など細部には大正モダンが散りばめられている。
正面玄関を入ると、ひんやりとした空気とともに蛍光灯がうっすらと廊下を照らしている。3階までの階段が3つあって、1つは90有余年の歳月を染み込ませたような石の鈍い輝きがある。前を通る市電の音が小さく反響していた。
テナントは法律事務所などのオフィスのほか飲食店、古本屋、写真事務所、理容店などで空きフロアが各階にある。1988年の札幌創建120年記念の際には「さっぽろ・ふるさと文化百選」に選ばれ、2009年には「札幌景観資産」に認定された。
94年の年輪を刻んだビルだが、不思議なほど周囲の街並みに溶け込んでいる。100年も150年も変わらぬままでいる気品を宿したビルだ。