仙台高検や大阪高検の検事長を務めた増井清彦氏(77)は、大阪地検特捜部検察官がいわゆる村木事件で引き起こした証拠隠滅・犯人隠避の犯罪によって地に落ちた検察の信頼を回復する課題などについて講演した。根底にあるのは検察の驕りだとし、「検察は市民の代理人であってその協力なしには何もできないことの自覚と責任を欠いていた」と述べた。(写真は講演する増井氏)
 
 大阪地検特捜部について、事件の勝手読みがあり、柔軟な見通しがなかったこと、大阪地検管内の人事の硬直化により固定的メンバーが集まっていたことなどが遠因だとした。
 
 増井氏が強調したのは、「検察は一般の市民に支えられていることが基本だ」ということ。「検事が目立つのは良い社会ではない」と述べた。
 
 検察官の在り方検討会議で、検事長が検事による捜査・起訴、訴訟指揮を決済するように提言していることについては、「それじゃ検事正や次席は何をするのか。何のために存在しているのかが分からなくなる。提言のようになったら、頭でっかちの組織になって実際に現場で働く検事がいなくなってしまう」と提言が示した改革案は好ましくないという考えを示した。
 
「検事は自分たちのことをきちんとやること。やるべきことをきちんとやらないから、大阪地検特捜部のような結果になっている」として、検察の組織をいじるのではなくて、きちんと本来の責任を果たすことが信頼回復につながると強調した。
 
 また、増井氏はマスコミにも注文を付けた。増井氏が指摘したのは、4月2日付けの日経新聞社説。その社説に『検察は外部の有効な監視を受けない組織』『自ら捜査して起訴するのが問題』とされていることについて、「検察組織くらい行政機関でオープンになっている組織はない。裁判所の監視を受けているし法廷は公開されている。行政の中で一番批判を受けやすい立場にある。なんでこんな変な社説になるのか、憤慨に耐えない」と語気を強めた。
 
 増井氏は東京高検次席時代に毎日午前と午後に検察内で、午後10時からは自宅で記者との懇談会を行ってきたことを紹介、「マスコミは胴上げをしておいてドスンと落とす。マスコミにあまり検察を持ち上げて欲しくない。特捜部と言っても別段優秀な検事が集まっているわけではない。検事同期の河上和雄氏は未だに『元東京地検特捜部長』としてマスコミで紹介されているが、最高検検事や公判部長も務めており本人にとったらなぜという気持ちだろう。特捜部を持ち上げているのはマスコミ」と語った。
 
 ともあれ、大阪地検の事件は、検察の信頼を根底から崩したのは事実。20年あるいは30年は今回の事件の記憶が市民に残ることは避けられない。「検事は誠実にコツコツと自らの役割と使命を果たすことに尽きる」(増井氏)
 
 増井氏の講演は、宮坂建設工業創立90周年記念として7日、札幌市内で行われた。講演後、会場から領海侵犯で逮捕された中国漁船船長を那覇地検が釈放したことの是非、鳩山由紀夫前首相が実母から受けた政治献金についてコメントを求められた。

 増井氏は、「那覇地検には政府筋からそれとなく釈放の示唆があったと推測する。私は昭和50年にミグ25で函館空港に降り立ったベレンコ中尉を取り調べたが、外交を優先させて不起訴にして米国に送り出した。不起訴によって国内の法秩序が乱れるかというと、そういうことはないと判断したからだ」と今回の那覇地検の取った行為は妥当だったという見解を示した。
 
 また、鳩山前首相の献金について、「鳩山前首相が実母からの献金を自分の所得にしたのなら脱税になるが、そうではない。よって平成の脱税王というのは当たらない」と丁寧に答えていた。


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