社団法人北海道総合研究調査会(略称・HIT)が発行している月刊誌『しゃりばり』が、電子版から3年ぶりに活字媒体に復帰した。ネット社会が広がる中で、活字からネットへの移行が多いが、ネットから活字への“逆流”は珍しい。
8月20日発行の活字版復活号は評論家の粕谷一希氏や文筆家の轡田隆史氏らが「活字の底力再発見」と題して座談会を収録している。『しゃりばり』は、商業政治経済誌ではなく、シンクタンクの発行する学術系高質月刊誌であり、固定読者が多いと見られる。読者との双方向の議論を展開して、概念を煮詰めて発信していくには、紙の方がベターという判断があるようだ。
活字版再開号は、電子版になる前のB5判と同じ判型。ページ数は表回りを入れて44ページ。電子版からの回帰を記念するように、前述した座談会に18ページを取り、座談会出席者の活字への思いが強く訴えられている。
粕谷氏は座談会の中でこう述べている。
《インターネットで交わされる情報は活字の代用にはならないと思っている。私は活字というのは、『情報の選択的な構成である』と定義しています。雑誌も新聞も情報を選ぶことによってカタチになっていくわけで、そのプロセスで捨ててきているものが圧倒的に多い。比喩で言えば、一つを掲載するために九つは捨てます。これはトップ記事をつくる本来のプロセスです》
編集人の大沼芳徳氏は電子版から活字媒体に復帰したことについて、「電子版のときはクリック数などが紙媒体のときとは比較にならないくらい多かったが、どれだけの人が“読者”なのかがわからないし、発信する側と受け取る側の情報共有というものが薄くなってしまったように感じていた。ネット時代でもじっくりと物事を考えるには、やはり紙媒体の持つ力は大きいですから」と言う。
3年前に電子版に移行したのは、ネット時代への対応とともにコスト削減の効果も狙っていた。コスト削減には一定の効果があったものの、肝心の『しゃりばり』が持つ媒体力が薄まったのは否めない。
活字版復活に当たって、紙質を変えたり印刷会社を変更するなどコスト面での検討も重ねた。今日9月20日には活字復活版第2号となる通巻344号が発行される。
ネット社会の奔流から再びリアル社会に戻ってきた『しゃりばり』が、北海道の経済・社会の中で小さくても光る木鐸として存在感を放つことが期待される。
(写真は活字媒体に復帰した『しゃりばり』)