「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
第95回は、旭川市の「男山酒造り資料館」です。ぜひご愛読ください。
(合田一道)
■第95回 男山酒造り資料館
-酒造りの歴史と文化を伝える-
男山酒造り資料館(外観)
男山酒造り資料館は、男山株式会社の本社内に併設されている資料館で、JR旭川駅から永山方面にバスで約20分のところにある。男山の前身である山崎酒造は、1899年(明治32年)に山崎與吉によって旭川で創業。1968年(昭和43年)に今後の流通を考慮して、会社を市内中心部から国道39号線に面している現在の場所に移転。そして新社屋竣工と同時に、資料館も開設した。
男山は寛文年間に、伊丹(現兵庫県)の造り酒屋「木綿屋山本本家」によって誕生。古今第一の銘酒で、江戸幕府の将軍御膳酒であった。しかし灘の酒の台頭で、明治時代初頭に廃業。その後、日本各地にその名にあやかった銘柄が多く誕生したが、木綿屋との関係は無かった。山崎酒造は会社移転の年に、木綿屋の末裔から「男山」の正統を継承。これにより、社名を今の名称に変更した。
正面階段を上って左にあるのは、男山が品評会等で獲得した賞状やメダルの展示である。男山は1977年(昭和52年)、日本酒として世界で初の「モンドセレクション」金賞を受賞。以来47年連続入賞している。さらに、「札幌国税局新酒鑑評会」、「全国新酒鑑評会」、「欧米酒類コンクール」、「国際酒類コンクール」等に何度も受賞している。
その隣には、男山を出している海外10ケ国の日本料理店を写真と名刺付きで紹介している。パネルで取り上げている国名は、米国をはじめ、カナダ、台湾、中国、韓国、タイ、シンガポール、フランス、ドイツ、イタリアである。
パネルの隣に、旭川6条通7丁目にあった旧社屋の絵と、18人の有名人のサイン入り利きお猪口と色紙が飾られている。特に有名な人物は、酒場詩人で作家の吉田類、東京農業大学名誉教授の小泉武夫、北海道知事の鈴木直道、元サッカー選手の中田英寿である。
その近くには、大瓢箪とともに酒蔵開放の様子の写真が46枚飾られている。2月の第2日曜日に開催される酒蔵の一般開放は、年に一度の男山の大イベントである。1979年(昭和54年)より毎年開催され、多くの人で賑わう。資料館のすぐ隣は酒蔵で、館内から窓越しで酒造りの様子を見学できる。普段の酒蔵は立入禁止である。
その他の展示物として、男山を道内唯一200年企業として紹介した日本経済新聞の記事、ロックバンド「バン・ヘイレン」のベーシストであるマイケル・アンソニーと東京大学農学部教授の坂口謹一郎に関するものである。
江戸時代資料室の中の展示は「浮世絵が語る酒造り歴史」を題して、浮世絵の他に酒造りに関する歴史的資料を展示。喜多川歌麿の『名取酒若那屋白露木綿屋男山』は、制作過程を描いた順序摺の浮世絵で、22枚で説明している。さらにボストン美術館とのやり取りで、原画の複写も入手した。歌麿以外では、忠臣蔵の様子を描いた歌川国芳の『誠忠義臣名々鏡』をはじめ、五渡亭国貞、安藤広重の浮世絵、葛飾北斎の掛軸が飾られている。展示ケースには、貝原益軒の『貝原養生訓』、江戸時代出版の酒に関する文献等がある。その他、酒樽、酒器類、壺、男山本家から受け継いだ権利書や印鑑、秘伝書、酒屋番付などがある。
館内の展示物1:江戸時代資料室内の浮世絵、酒器等の展示
館内の展示物2:江戸時代資料室内にある男山の酒史及び印鑑、秘伝書等
館内3階は、昔の酒造りの諸道具が並んでいる。日本酒の製造工程順に、江戸時代から昭和初期まで使用していた酒造りの道具が並ぶ。道具は、釣瓶、桶、甑、樽、酒棒など53種類ある。壁には酒造りの製法と工程を紹介。映像コーナーでは男山の歴史を視聴できる。
館内の展示物3:昔の酒造り道具の展示
道内産酒米は収穫量が少なく、種類も「吟風」一種類であった。このため、かつての男山では、道内産酒米の使用比率は低かった。2000年代に入り、道内産酒米の収穫量や種類も増えたため、道内産の使用比率が年々高くなってきた。
館内1階は無料試飲、売店コーナー。季節限定や資料館限定の商品が多数ある。資料館前には「延命長寿の水」と呼ばれる男山の仕込み水がある。この水は大雪山の地下水を汲み上げた伏流水で、1人20ℓまで無料で汲むことができる。
利用案内
住 所:〒079-8412 旭川市永山2条7丁目1番33号
電話番号:0166-47-7080
開館時間:9:00~17:00
入 館 料:無料
休 館 日:12月31日~1月3日
アクセス:JR旭川駅より1条8丁目バス停まで歩く。(所要徒歩5分)。そこから道北バスの68・70・630・667番のバスに乗り「永山2条6丁目」下車、徒歩2分。
付近の見どころ:旭川デザインセンター
旭川家具・クラフトが一堂に集結する複合施設。旭川家具の歴史やものづくりについて学ぶことができるミュージアム、ギャラリー、体験工房が併設されている。企画展やコレクション展なども開催される。
文・写真:大渕 基樹