「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
第93回は、陸別町の「関寛斎資料館」です。ぜひご愛読ください。
(合田一道)
■第93回 関寛斎資料館
-陸別町の開拓に生涯を捧げる-
関寛斎資料館入口
道の駅『オーロラタウン93りくべつ』内に併設されている関寛斎資料館は、1993年(平成5年)5月に開設された。以前の建物はふるさと銀河線陸別駅であったが、銀河線は2006年(平成18年)4月に廃止されたため、道の駅の所有となった。
関寛斎は1830年(文政13年)、上総国山辺群中村(現千葉県東金市)に誕生。幼名豊太郎(後に務)、通称が寛斎、明治になって寛(ゆたか)と改名。9歳で関家の養子に。19歳で佐倉順天堂に入門し、佐藤泰然の門下生となった。1852年(嘉永5年)に帰郷して村医者となり、君塚あいと結婚した。32歳の時に長崎へ行き、オランダ軍医ポンぺの元で西洋医学を習得。帰郷後、徳島藩の典医となった。1868年(慶応4年)、上野の山の戦いで官軍医師として従軍し、戊辰戦争で奥羽出張病院頭取に就任。戦後、典医を辞めて徳島で医院を開業。1902年(明治35年)に斗満(陸別)に入植し、1912年(大正元年)に服毒自殺した。薬品の誤薬による事故説もある。
資料館前には、明治維新関係者6人と寛斎の人生に影響を与えた7人の写真がある。さらに、小室吏制作による関寛爺のブロンズ像「トマムの原野に立つ」、及び寛爺25年祭の顕彰碑の石碑の写しが飾られている。
館内正面にある写真は、洋装姿をした寛斎の青年期。右側に進むと、「ゆらぐ鎖国と先人達」、「医を持って立つ」、「明治維新の激動の中で」の3つのテーマで、蘭学の歴史、佐倉順天堂、奥羽出張病院、長崎衛生所、及び寛斎の生い立ちについての写真やパネル展示がある。さらに、『解体新書』等の医学書をはじめ、実際に使用した医療道具、眉間に切り込みのある頭蓋骨標本、佐倉順天堂の医学試料及び、『長崎在学日誌』、『奥羽出張病院日記』、奥羽出張病院の旗が展示している。ここには、寛斎についてのDVDもある。
つきあたりの「徳島の日々」は、藩医、町医者として39年間過ごした徳島在住時の展示。1899年(明治32年)撮影の親子3世代17人の写真がある。妻あいは8男4女をもうけた。このため寛斎は、「婆さんはわしより偉い」、「婆さんにはかなわない」と口癖のように言っていた。あいは寛斎の陸別入植時には札幌に留まり、一度も陸別に足を運ぶことなく、1904年(明治37年)に亡くなった。その他の展示物に、勝海舟の書、金婚式の扇子をはじめ、寛斎愛用の鞄、杖、風呂敷、『蜂須賀家日抄』、土地の権利書の他に『徳島阿波国一般繁栄一覧表』の番付等が見える。
館内の展示物1:中央は一族の写真、左は勝海舟の書
「蝦夷地の開拓」にあるのは、北海道開拓当時の絵(想像図)と関牧場配置図のジオラマ。ジオラマの横にあるのは、陸別で使用していた生活用具や農機具類、明治後期の白米運搬の袋、関牧場や又一に関する資料及び、寛斎一族の家系図、亡くなる数年前に写した息子4人との写真の展示である。牧場経営は、札幌農学校(現北海道大学農学部)を卒業した七男又一の『十勝国牧場設計』を元に進められた。生前の寛斎はトルストイの思想に共鳴して理想的な農村建設を目指し、自作農を育て土地を分与する考えでいた。又一はその逆で米国式の近代的な農業の考えであった。このことで晩年は、親族と土地の所有に関する争いに巻き込まれた。
農機具の斜め左に、「寛爺の部屋」を再現している。夫婦の写真の他に漢詩の屏風、掛軸、鼓、机や箪笥がある。ここは靴を脱いで入ることができる。
館内の展示物2:寛斎の部屋の再現
「斗満の原野を拓く」では、自筆の寛爺詠歌、君塚貢日記、徳冨蘆花(健次郎)の短歌、及び関神社と石碑の写真がある。
館内の一番奥は、「寛斎資料コーナー」。寛斎に関する書物、陸別町の歴史関係の文献、1978年(昭和53年)9月7日に訪問した司馬遼太郎の写真や城山三郎の色紙等の他に、ユクエピラチャシ跡から発見された鉄器や骨角器の展示もある。
館内の展示物3:関寛斎資料コーナーより
寛斎が終焉を迎えた陸別には資料館の他に、駅前広場にある関寛爺之像、花さく郷の顕彰碑、徳冨蘆花の歌碑のある斗満信常寺跡、正見寺境内に辞世歌碑、寛斎の祠がある青龍山(国指定史跡ユクエピラチャシ跡)、関寛爺あい嫗埋葬の地など、寛斎ゆかりの地が多く見られる。また命日の10月15日には、陸別関寛爺顕彰会の主催で慰霊祭「白里忌」が営まれる。
利用案内
住所:〒089-4311 陸別町大通 道の駅オーロラタウン93りくべつ内
電話番号:0156-27-2123(教育委員会内)
FAX:0156-27-2124(教育委員会内)
開館時間:9:30~16:30
入館料:高校生以上300円(陸別町に住所を有する者は無料)
中学生以下無料
休館日:祝日を除く月曜日、祝日の翌日、12月30日~1月3日
アクセス:JR池田駅から十勝バスで陸別行きに乗り終点下車(約2時間)
JR北見駅から北見バスで陸別行きに乗り終点下車(約90分)
付近の見どころ:ふるさと銀河線りくべつ鉄道
2006年(平成18年)4月20日に開業の鉄道保存展示施設。ふるさと銀河線の線路の一部と動態保存の気動車を引継いだ。鉄道運転体験コースは5.7㎞と日本国内最長。運転体験には予約が必要。
文・写真:大渕 基樹