第82回 レ・コード館 -サラブレッドの町にレコード100万枚-

連載 北のミュージアム散歩

 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第82回は、新冠町の「レ・コード館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第82回 レ・コード館
-サラブレッドの町にレコード100万枚-

 太平洋と日高山脈に挟まれた新冠町は明治初期、開拓使がアメリカから招聘したエドウィン・ダンにより種畜場が作られた地だ。数々の優れた競走馬を生み出してきた町に、レコードのミュージアムがあるということに興味が湧いた。国道235号を東に走り、2時間ほどで新冠町に着く。バスの停留所のすぐ前が「レ・コード館」だ。壁面がまるくカーブを描いている建物で、屋根の中央には「優駿の塔」がそびえている。


レ・コード館全景(新冠町レ・コード館提供)

 入口のガラス戸の、キラキラ光るレコード盤が迎え入れてくれた。館内に一歩足を踏み入れるなり、曲線の白い壁一面に飾られた沢山のレコードジャケットが目に飛び込む。円い天上から差し込む自然光に輝く30センチ四方の色とりどりのジャケットは、芸術品と言われているほど美しい。早くも、異次元の世界に入り込んだような気持ちになる。


正面の壁レコードジャケットの展示(新冠町レ・コード館提供)

 レコードをイメージした円形のフロアーを時計回りに進む。レコードラックには、クラシック、シャンソン、歌謡曲、民謡などすべての分野のレコードが並んでいて、プレイヤーとヘッドホーンで聴くことができる。個室でゆっくりと楽しみたいときは、「リスニングブース」を利用する。
 20座席の「レ・コードホール」ではこのホールのために設計された「オールホーン・スピーカー」が備え付けられている。全長3.4メートルのスピーカは国内最大で、高音、中音、低音の音がはっきりと聴こえて、その迫力は凄い。いつまでも座って聴いていたい気持ちになってしまう。このホールは貸し切りのコンサートホールとしても利用されている。希望の曲目は65万枚を保管している「レ・コードバンク」から、取り出してくれる。レコードの保管には温度や湿度を一定に保つ工夫がなされているという。


レコードの展示、後方ガラス越しにレ・コードバンク(新冠町レ・コード館提供)

 「レ・コードミュージアム」では、レコードや蓄音機が発展してきた歴史や文化を学ぶことができる。このミュージアムにはアナログレコードによる解説もあるという。


ミュージアム入り口でエジソン博士が出迎えてくれる(新冠町レ・コード館提供)

 レコードはエジソンによって1877(明治10)年に発明され、グラハム・ベルに引き継がれる。蝋管レコードから、SPレコード、更にLPレコードへと発展してゆく。日本にレコードがもたらされたのは1879(明治12)年で歴代の蓄音機やスピーカーも並んでいる。エジソンの錫箔蓄音機から筒形シリンダー型へと発展していった。展示品の中には、寺内タケシが使った白いエレキギターや、南こうせつのフォークギターも見える。

 10センチメートルの厚い扉に守られた貴重品「ギャラリー」には、世界の逸品が並んでいる。イギリスのエドワード7世の記念レコードや世界一大きなレコード(50.8センチ)と世界一小さなレコード(3.4センチ)があり、ビクターレコードのトレードマークの犬、ニッパー君もスピーカーをのぞき込んでいる。


ギャラリーの展示(新冠町レ・コード館提供)

 このレ・コード館は、地元の音楽愛好家の熱意で生まれた。平成元(1989)年、時代はアナログレコードからCDに移行する時期であった。20世紀の貴重な音の文化、レコードを残さなければいけないと収集を始めた。レ・コード館は平成9(1997)年に完成した。全国の音楽愛好家から寄贈されたレコードは100万枚にもなる。
 レコードの語源は、RE=「繰り返す・戻る」とCord=ラテン語の「心」を合わせたもので、「心の記憶を呼び戻す」という意味が籠められている。レコードの柔らかな優しい音に包まれて人間らしい心を取り戻すことのできる、至福の館(やかた)がここにある。

利用案内
所 在 地:〒059-2402 新冠町字中央町1-4
連 絡 先:電話 0146-45-7833  FAX 0146-45-7778
アクセス:札幌駅道南バスターミナルから高速ペガサス号で2時間、新冠下車すぐ
開館時間:見学コース 午前10時―午後5時
入 場 料:見学コース 一般/300円 高校生/200円 小中学生/100円
使 用 料:レ・コードホール貸切1時間/3700円 リスニングブース1時間/400円

付近の見どころ
「優駿の塔」に昇ると、太平洋と日高山脈に囲まれた新冠町の360度が展望できる。「道の駅」にはピーマンの栽培量日本一を誇る、新冠町産ピーマンの珍しい加工品が並んでいる。「サラブレッド銀座」は大小様々な牧場が約8kmに渡り連なる牧場通り。かつて中央で活躍していた名馬たちの故郷で、母馬に寄りそう仔馬の可愛い姿も見える。

文:山崎 由紀子 / 写真:新冠町レ・コード館

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