第66回 函館市北方民族資料館 -函館で学ぶ北の先住民族の暮らし-

連載 北のミュージアム散歩

 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第66回は、函館市の「函館市北方民族資料館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第66回 函館市北方民族資料館
-函館で学ぶ北の先住民族の暮らし-


函館市北方民族資料館全景

 函館駅から「函館どっく前」行きの市電に乗って8分、「末広町」電停を降りてすぐ前に函館市北方民族資料館がある。大正15年に建てられた旧日本銀行函館支店を活用した建物で、館内にはレトロな雰囲気が漂う。
 この資料館には、北海道のアイヌ民族のみならず、サハリンのウィルタ、ニヴフ、アリューシャン列島のアリュートなど北方民族の使っていた道具や衣服、彼らを描いた絵画など幅広い資料が展示されている。


『北方民族分布図』(函館市北方民族資料館パンフレットより一部抜粋)

 入口を入ってすぐの展示ホールでは、大きな蕗の葉の下にいるコロポックルたちの像が出迎えてくれる。コロポックルは、アイヌの伝承物語に登場し、アイヌ語で「蕗の下の人」という意味を持つ。
 吹き抜けになったホールを囲むように「アイヌ風俗12ヶ月屏風」(レプリカ)が展示されている。作者の平沢屏山は、幕末から明治にかけて函館で活躍した絵師で、アイヌ絵の代表的作家。十勝や日高へ行ってアイヌ民族と生活を共にし、その暮らしをつぶさに観察し、スケッチしたという。
 当時の欧米の研究家は、アイヌ民族やその文化に強い関心を示し、開港間もない箱館を訪れた外国人のほとんどが屏山のアイヌ絵を買い求めたという。彼の絵は日本だけでなく、海外にも多く残されている。この屏風絵は、正月の年礼、シカ猟、家族団らん、クマ送りなど1年を通じた暮らしぶりが詳細に描かれており、当時の生活がよく分かる貴重な資料である。


アイヌ風俗12ヶ月屏風

 展示室1では「装いの美学」をテーマに、北方民族の衣服や装飾品が展示されている。アイヌ民族は、和人や北方民族との交易により様々な品を手に入れていた。それをよく示しているのがここに展示されている山丹服だ。16世紀頃から中国清朝と北方民族との間で山丹交易が行われていた。それは朝貢貿易で、清朝は彼らに一定の自治を認める代わりにテンなどの毛皮を貢納することを求め、恩賜として官僚の衣服やガラス玉などの装身具を与えていた。この服には、中国の身分が高い人のみが着ることができる爪のついた龍が施されている。
 アイヌ民族はそうした品々を北方民族との交易で手に入れた。その鮮やかな色彩や文様は、蝦夷地のみならず本州でも「蝦夷錦、山丹錦」と呼ばれ珍重されたという。北方民族を介してできた大陸との繋がりがこの服に象徴されている。


山丹交易の象徴・山丹服(蝦夷錦)

 展示室の壁面には、様々な素材からつくられた民族服が展示されている。エゾシカやトナカイの毛皮や鳥の羽から作られた北方民族の服、オヒョウの樹皮から糸を作って織られたアイヌのアットゥシ(樹皮衣)や交易で手に入れた木綿で作られた服。服に刺繍されたアイヌ文様は地域ごとに異なり、その模様を見ればどこの地域で作られたものか分かったという。
 首飾りや耳飾りなどの装身具も展示されている。女性用の首飾りはタマサイと呼ばれ、儀礼や儀式などに用いられた。タマサイに使われているガラス玉はヨーロッパ、ロシアなどから中国大陸や本州を経てもたらされ、青玉が特に好まれたという。装身具としてだけではなく、悪い霊から身を守る宝物として大切にされ、母から娘に受け継がれた。


アイヌ民族の伝統的衣服や装飾品

 2階には、展示室2〜7があり、儀式や日常生活で使われた道具や器が展示されている。精巧な彫刻が施されたイクパスイ(棒酒箸)、マキリ(小刀)などを間近で見ることができる。
 これらの資料は、開拓者や篤志家、北方民族研究の世界的な権威者馬場脩(おさむ)氏、児玉作左衛門氏によって集められたもので、国の重要文化財に指定されているものもある。
 かつて北海道が蝦夷地と呼ばれ、函館が箱館と呼ばれていた江戸後期から明治初頭にかけて函館は北方文化圏の重要な玄関口であった。だからこそ函館には、こうした多くの資料が残されている。函館に来る機会があったら、ここを訪れて北方民族について学んでみるのもいいだろう。

利用案内
所 在 地:函館市末広町21番7号
電  話:0138-22-4128
開館日時:4月〜10月 午前9時~午後7時
     11月〜3月 午前9時〜午後5時
休 館 日:12月31日〜1月3日
入 館 料:一般 300円 学生・生徒・児童 150円
交通機関:市電「末広町」電停下車 徒歩1分

付近の見どころ:
元町公園
資料館を出て、基坂(もといざか)を上って5分ほど歩くと元町公園に着く。旧函館区公会堂のすぐ前にあり、函館港や函館の町並みを一望できる。公園内には明治の洋風建築である旧北海道庁函館支庁庁舎があり、中には観光館内所も設置されている。

文・写真 藤森 祐子

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