「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
第64回は、札幌市の「北海道開拓の村」です。ぜひご愛読ください。
(合田一道)
■第64回 北海道開拓の村
-開拓時代を体験できる野外博物館-
開拓の村入口となっている旧札幌停車場(復元)
北海道開拓の村は、明治から昭和初期にかけて建設された北海道各地の建物を移築復元、再現した野外博物館だ。札幌市の東にある厚別区から江別市にかけて広がる野幌森林公園の一角にある。市街地群、漁村群、農村群、山村群の4つのエリアに分かれていて、その地域ごとに特色のある52の建築物が見学できる。村全体が展示で、村内を歩くことによって開拓当時の生活を体感できる。村の敷地は54ヘクタールととても広く、一日で全て回ることは難しいので、まず市街地群の主な建物を見て、興味のあるエリアに行くのがいいだろう。
村の中には日本唯一の本格的な馬車鉄道があり、馬車に乗って市街地群と農村群を移動できる(有料)。馬は、当時の交通、農業、木材の運搬など、生活に欠かせないものだった。道が雪で覆われる冬は、馬そりでの運行になる。馬の曵く乗り物に乗って、昔の北海道の気分を味わってみよう。どちらも30〜40分間隔で運行している。
村内をのんびり走る馬車鉄道
開拓の村の入口にあるのは、旧札幌停車場。明治41年(1908)から昭和27年(1952)まで使われた札幌停車場(駅)の正面外観を縮小再現したもので、当時のアメリカの建築スタイルが取り入れられている。この駅から開拓時代への旅が始まる。
停車場を出てすぐ左手に、緑と白の美しい大きな洋風建築の建物、旧開拓使札幌本庁舎が見える。明治6年(1873)に建てられ、明治12年(1879)に火災で焼失した庁舎の外観を再現している。北海道の開拓はここを拠点として進められた。内部はビジターセンターになっていて、情報コーナーがあり、休憩などにも利用できる。
馬車鉄道が通るメインストリートの右手には、旅館や蕎麦屋、商店などがある。左手には、旧小樽新聞社、派出所、郵便局、理髪店などが並び、当時の町並みを彷彿とさせる。建物の内部も当時の様子を再現して展示してあり、中に入って見学できる。北海道を舞台にした人気漫画『ゴールデンカムイ』にこれらの建物が登場しており、聖地巡りとして、どの建物がどこのシーンに描かれているのを探しに来る人もいるそうだ。
威風堂々たる旧開拓使札幌本庁舎(復元)
市街地を抜けて、左へ曲がると漁村群がある。旧青山家漁家住宅は、小樽でニシン漁で財をなした青山家の建物を移築したもの。19世紀から20世紀中頃にかけて北海道はニシン漁で賑わった。ニシンは食用だけではなく、肥料に加工されて本州に運ばれ、北海道に大きな富をもたらした。ニシン漁の季節労働者、ヤン衆が寝泊まりする番屋や蔵も移築されており、ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝とその妻リタの物語をTVドラマ化した『マッサン』の撮影もここで行われた。
農村群には、屯田兵屋や養蚕のための施設、酪農畜舎、農家住宅など、北海道の農業に関する建物がある。神社もあり、昔の祭りを再現したイベント「秋祭り」では、この神社のまわりで金魚すくいなどの出店や大道芸、子供神輿などが催される。
農村群の一番奥まで行くと開拓小屋がある。開拓小屋は開墾小屋、拝み小屋とも呼ばれ、北海道に来た移住者が一番最初に建てた住居である。藁葺き屋根の掘っ建て小屋で、土間に笹や枯れ草を敷いて炉を堀り、窓や入口にはむしろが下がっている。ほんの150年前の北海道で、開拓初期の一時期とはいえ、このような家に住んで冬を越していたとは今の生活からは想像できない。この小屋は明治初期のものを再現したものだが、時間に余裕があれば、北海道開拓の原点とも言えるこの小屋を見ておきたい。
復元された開拓小屋
お腹が空いたら、村の入口近くの「村の食堂」で食事、軽食が楽しめる。道内でよく食べられている豚汁や味噌おでん、いも団子などをセットにした食堂名物の屯田兵定食や北海道の定番おやつ、いももちなどがおすすめ。
馬車が走り、昔の建物が並ぶ丸ごとタイムスリップしたような村の中を歩き、五感を使って開拓時代の北海道を体験してみよう。(村のイベントやサービスについては、新型コロナウイルス感染防止のため中止、変更の可能性あり)
利用案内
所 在 地:札幌市厚別区厚別町小野幌50番1
電話番号:011-898-2692
開館時間:9時―17時 年末年始は休館(季節により変更あり)
アクセス:JR新札幌駅、地下鉄新さっぽろ駅よりJR北海道バス「開拓の村」行きバスにて20分(約30分ごとの運行)
付近の見どころ:
百年記念塔
昭和45年(1970)に北海道百年記念事業の一環として、野幌森林公園内に建てられた高さ100mの塔。空に向かって伸びる二本の曲線によって構成され、遠くからでもひと目でわかるランドマークだったが、築50年を過ぎて老朽化が激しくなり、取り壊しが決定した。取り壊し時期はまだ決まっていないが、この百年記念塔の姿を見られるのはあとわずかかもしれない。
文・写真 藤森 祐子