第45回 おたるみなと資料館  ~築き上げた湾岸都市の財産~

連載 北のミュージアム散歩

 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第45回は、小樽市の「おたるみなと資料館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第45回 おたるみなと資料館  ~築き上げた湾岸都市の財産~


おたるみなと資料館の外観

 JR函館本線「小樽築港駅」を下車し、マリンロード歩道橋を渡り国道5号沿いに東へ行くと、約10分程でおたるみなと資料館に着く。
 おたるみなと資料館は、小樽港湾事務所に併設されている資料コーナー室で、約120平米メートルの広さがある。主に、北防波堤建設の歴史と築港工事で活用された技術を伝えている。受付にあるインターホンを押すと案内される。
 小樽港の北防波堤の建設にからんで、広井勇と伊藤長右衛の業績が紹介されている。明治30年、札幌農学校教授である広井勇は、小樽築港事務所の初代所長を兼任し、北防波堤の計画と現場の指揮をした。まだ国内では、コンクリートの配合や強度の解明もされておらず、困難な試みであったという。

 広井勇はコンクリート強度の経年変化に関する調査を実施し、緻密な試験結果を土台に、セメントコンクリートの製造方法を確立し、日本人技師として初めて外洋防波堤の建設に成功する。
 広井は幾つかの新工法を取り入れた。なかでも、波の力を算定する『広井公式』は昭和50年代まで全国で使用された。近代工事の先駆者である彼の調査報文や、多岐にわたる貴重な資料が展示されている。
 明治42年、伊藤長右衛は第三代小樽築港事務所長に赴任し、ケーソン(埠頭や防波堤の建設に使われる大きなコンクリートの函)を海上へ運搬する為の機能を備えた『斜路式(しゃろしき)ケーソン製作ヤード』を考案した。動力に頼ることなく、ケーソンの重さを利用した大規模な施設である。今まで例のない技術であった。
 大正元年から平成17年までにおおよそ800函を製作して、小樽港をはじめその近郊港湾や漁港に設置した。

 こうした取り組みが平成21年度、土木学会選奨土木遺産に認定された。製作ヤードの構造断面を表した模型やパネル写真もあり、進水までのプロセスがよく理解できる。
 部屋の中ほどに、鉄槌機、かくはん機、標準混合機の実物が展示されている。これらはコンクリートの長期耐用を調査する為の機械であり、それぞれに運用の概説が記載されている。隣には潜水服と水中作業をしている写真が展示されている。
 明治から大正・昭和にかけて、北防波堤を含めた小樽築港の事業は、様々な工夫を施しながらも確実な実績を築いた。日本遺産認定証、北海道遺産選定証、小樽市指定歴史的建造物の指定書や記念品などがあり、その事業が後世にも残る際立った財産であることを、肌で感じる。



館内の様子

 この時代のビデオ観賞もできる。国内で港湾事業が失敗続きであった頃、小樽港の設備を着々と進めていた先人たちの英知と技能がわかる。
 築港完成後、一世紀を経てもなお港町を頑固に守り、人々に安心感を与えてきた港湾構造物。その歴史を知らせている。
 防波堤などが存在しない頃、停泊中の船が沈む事故が度々起きていた。北国の荒波に耐えられる遺産を築き、商業港として発展を遂げた小樽の文化の礎は北防波堤の成功にあると言っても過言ではない。
 築港の歴史を学べる資料館は、先人たちの築き上げた遺産の足跡を、今に伝えている。

利用案内
住  所:小樽市築港2-2
電  話:0134-22-6131
最 寄 駅:JR小樽築港駅より徒歩10分
営業・見学時間:9:00~16:00)
休 館 日:土曜 日曜 祝日
入 館 料:無料

付近の見どころ:
新南樽市場
水産・加工品や食料品に果実などを取扱う25の店舗で構成する市場。
鮮度と安いは当たり前、鮮度を極めた厳選商品を産直価格で提供するを掲げている。
旬の魚を味わえる食堂もある。
所在地:小樽市築港8番11号 小樽築港駅から徒歩15分程。
TEL:0134-27-5068(事務所)

文・写真 雪乃 林太郎

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