第62回 岩内町郷土館 -鰊と助惣鱈で栄えた歴史-

連載 北のミュージアム散歩

 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第62回は、岩内町の「岩内町郷土館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第62回 岩内町郷土館
-鰊と助惣鱈で栄えた歴史-


岩内町郷土館全景

 岩内町郷土館は1971年(昭和46年)に、町制70周年を記念して設立された。先人の偉業を伝え、郷土の歴史的資料を長く保存し、郷土開発の志を養うのが目的。「特定非営利団体 ぱとりあ岩内」が運営している。

 入館すると、岩内町の年表と北前船と川崎船の模型が、時代ごとに並んでいる。
 縄文時代に関する展示は、鯨の骨や岩内東山円筒遺跡から発掘された縄文式土器が展示されており、北海道有形文化財に指定されている。
 その隣は、江戸時代の鰊漁に関する資料が並んでいる。漁具や模型の展示、それに隠れキリシタンのマリア像と言われる「子育て地蔵尊」と、松浦武四郎直筆の「熊野神社扁額」が並ぶ。また、鰊漁で大成功を修めた親方に関する展示が見られる。その筆頭格が梅沢市太郎と大井昌次郎である。鰊場の親方の副業として、金融業や味噌・醤油業、呉服店などを営み財産を増やした。その豪勢な生活ぶりを伝えるのが、明治時代制作の橋本清吉所蔵の雛人形と総刺繍の屏風だ。1905年(明治38年)製造の日本最古のリードオルガン「西川オルガン」は、町指定文化財になっている。オルガンは、希望すれば自由に演奏できる。


館内の展示物1:江戸時代から明治時代にかけて使用した鰊漁の漁具。左は鰊漁の模型。

 次は、明治時代から昭和初期の岩内の行政や教育に関するもので、郡役所関係の資料、1906年(明治39年)建築の簗瀬邸の模型や、当時の教科書が並んでいる。
 映像コーナーでは、古き良き時代の岩内の町を、テレビ画面で堪能できる。岩内町在住の由利雅春が戦前に撮影したものを、8ミリフィルムに再編集した作品。昭和初期の札幌と岩内及びその周辺の鉄道沿線の風景、小樽港に停泊中の連合艦隊の様子を見ることができる。さらに、「小型映画友の会岩内支部」が制作した、1969年(昭和44年)の岩内町の映像もある

 助惣鱈(スケソウダラ)漁に関する展示がある。昭和の頃まで使っていた漁具や魚群探知機、大漁旗が並んでいる。明治30年代に岩内沖で助惣鱈群生息場を発見し、延縄漁がはじまり、鰊漁とともに岩内の発展に寄与した。しかし、江戸時代から戦後直後まで続いた鰊の豊漁は影を潜め、昭和30年代から鰊は一尾も獲れなくなり、岩内の漁師は鰊漁から助惣鱈漁への転換を余儀なくされた。このため、現在の岩内は助惣鱈漁が主流である。


館内の展示物2:助惣鱈漁に使用した漁具類

 岩内には、「日本初」や「北海道初」がいくつかある。代表的なものは「日本のアスパラガス発祥の地」(入口近くに記念碑がある)で、1922年(大正11年)に下田喜久三博士により岩内近郊で栽培が開始された。製品化された缶詰と、関連資料が展示されている。「北海道最古の炭鉱」の茅沼炭鉱は、1856年(安政3年)に発見された。1869年(明治2年)より鉄道が敷かれて牛馬により石炭輸送が行われた。その時に使用された日本で最古の鉄製レールや、炭鉱の資料がある。他に「日本初自費による築港」、「日本初の野生ホップの発見」、「北海道初の水力発電」に関する展示もある。

 文学・芸術関係の展示では、夏目漱石、泉天郎、有島武朗、長田幹彦、水上勉などの作家を紹介している。漱石は生涯来道しなかったものの、岩内に22年間戸籍登録をした。理由は徴兵忌避説が有力だ。その時の戸籍謄本が展示されている。泉は医師でもあり俳人である。彼の「三日月や青物買ひにゆくといふ」という句は、岩内神社境内に石碑がある。作家の有島武郎は「白水会」を主宰し、岩内の現代文化の基礎を作った。長田幹彦は1934年(昭和9年)に「岩内音頭」を作詞した。

最後は、岩内大火とその復興に関する展示である。1954年(昭和29年)9月26日夜に発生した火災は、町の8割を焼き尽くした。画家の木田金次郎の作品が、千数百点焼失した。水上勉の推理小説「飢餓海峡」は、岩内大火と洞爺丸台風をモチーフにした作品として知られる。岩内町で、1963年(昭和38年)に映画ロケを行った。主演の三國連太郎の写真や、映画ポスターなどの展示がされている。
 二階は、岩内町関係者から寄贈されたレトロな品物が、数多く並んでいる。


館内の展示物3:岩内大火の時の写真と消防に関する展示

利用案内
住  所:〒045-0022 岩内町字清住5-3
電話番号:0135-62-8020
F A X:同上
開館期間:4月上旬から11月下旬まで
開館時間:9:00~17:00
休 館 日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日が休館日)
    12月~翌3月は冬季休館
料  金:一般(岩内町民) 100円(団体70円)
     (それ以外の町民)300円(団体250円)
     高校生以下は無料、団体は10名以上
アクセス:岩内バスターミナルから循環バスで「郷土館」下車。所要時間は約4分。

付近の見どころ:
簗瀬邸
 岩内古宇郡長と郵便局長を歴任し、地域の発展に貢献した簗瀬真精の隠居宅。1906年(明治39年)に建設された、和洋折衷建築の建物。岩内に残っている民家では、最古。内部は非公開。

文・写真 大渕 基樹

関連記事

SUPPORTER

SUPPORTER