【新店の研究】「ザ・ビッグ清田店」~安さが心をとらえた完成形

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「いらっしゃいませ」「ゆっくりお進みください」。店の人たちの声が、天窓のある広い空間に響いた。2025年11月7日。予定より15分早い8時45分にオープンした「ザ・ビッグ清田店」。清田区では初の「ザ・ビッグ」とあって、200人が行列をつくった。安さが心をとらえた完成形のDS(ディスカウントスーパー)。冬の足音が迫ったこの日、店内は熱気に溢れた。(2025年11月7日にオープンした「ザ・ビッグ清田店」※許可を得て撮影しています)

 イオン北海道(本社・札幌市白石区)が、自信を持つ「ザ・ビッグ」の価格訴求力。同社は、承継した西友のこの店舗を、一旦はフード&ドラッグ業態の「イオン札幌清田店」としてオープンさせた。近隣に「イオン札幌清田ショッピングセンター」があるため、自店競合しないようにSM(スーパーマーケット)に近い業態で出店した。しかし、結果的にお客に受け入れられなかった。同社は、1年で「ザ・ビッグ」への転換を決断する。業界関係者は、「マックスバリュではなく、ザ・ビッグに転換することにしたのは、価格でお客を驚かすような店でないと、求心力が生まれないとの判断があったのだろう。ザ・ビッグなら、競合店舗に勝てるという首脳陣の確信が、改装投資の額にも表れている」と言う。

(写真は、混み合う店内)

 西友承継から1年で、清田エリアの競争関係は変化した。「ロピア」が「スーパービバホーム清田羊ヶ丘店」内に出店、選択肢が増えた。相次ぐ食品値上げは、低価格志向を強めた。わずか1年での「ザ・ビッグ」転換は、この1年間で消費環境が大きく変化したことの裏返しでもあった。

 オープンのこの日、100円アンダーの青果が並んだ。柿1個50円、大根、人参95円。オープニング期間は、他のSMの半値という。お客を驚かすのに十分な設定だった。「ザ・ビッグ」の強みは、こうしたオープニング価格に近い水準が、日常化する点だ。平均的には、他のSMよりも2~3割は安い。そのことは、DS業態として完成の域にあることを意味する。「ザ・ビッグの営業利益率は、マックスパリュよりも高いかもしれない。店員の効率配置や店舗DXでローコストオペレーションが進んでいる。販管費上昇が利益を圧迫する中、売り上げの増加で圧迫度合いを薄められているのが、ザ・ビッグ業態だろう。他のSMが最も恐れる存在になっている」(業界関係者)

(写真は、店舗面積は約700坪と「ザ・ビッグ」最大級の「清田店」)

 イオン北海道が展開する「ザ・ビッグ」は、「清田店」が26店舗目だ。1店舗当たりの平均年商は、約25億円と一般的なSMよりも高い。それは、商圏範囲が平均5㎞とSMの2㎞よりも広く、広域からより多くの客を集めるからだ。「清田店」は、「ザ・ビッグ」の中で最大面積の「元町店」(札幌市東区、旧西友元町北二十四条店)とほぼ同じ約700坪。30億円超えを狙えるサイズだ。
 一般的なDSでは、グロサリー食品や日配品の構成比が高くなるが、「ザ・ビッグ」は、生鮮とデリカを合わせた構成比が約45%と高い。このことが、お客を引き付ける要素でもある。デリカ比率をさらに引き上げ、生鮮とデリカで50%に引き上げることが目標の一つになっている。

 イオン北海道の坂東聡・執行役員営業本部DS事業部長は、「清田店は、エリア初の店舗なので、地域の人たちに早く(店舗の存在を)浸透させたい。そのためにも強気に価格を出し、品揃えも進めていく」と話した。同社が、「ザ・ビッグ」業態を取り入れてから今年で15年、完成形になった「ザ・ビッグ」の次の展開を狙う実験店が、この「清田店」になりそうだ。オープンから約30分後、レジ待ちのお客が店内に滞留してきたため、最初の入場制限が行われた。坂東DS事業部長の目が、輝いた。

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