イオン北海道(本社・札幌市白石区)が展開するディスカウントストア(DS)「ザ・ビッグ」が、インフレ下で好調に売り上げを伸ばしている。昨年から続くコメ価格の高騰で、消費者の節約志向は一段と強まっているが、「ザ・ビッグ」は、こうしたマインドを引き寄せ、鮮度、品揃えも訴求するDSの新境地を開こうとしている。(写真は、2025年4月18日にリニューアルオープンした「ザ・ビッグ元町店」)
札幌市東区の「西友元町北二十四条店」を承継した「ザ・ビッグ元町店」。2025年4月18日のリニューアルオープン当日、開店前からお客が行列をつくった。この店舗は、昨年12月に西友閉店から2ヵ月でスピードオープンさせた店舗。買い物客の利便性を考慮して開店を早めたため、全面改修まで手が回らなかった。今回、2週間の休業期間を取って、課題だった冷蔵・冷凍ケースを全面的に入れ替えるとともに、什器類も一新した。さらに、売り場のレイアウトを一部替えて、惣菜コーナーを拡大させた。イオン北海道執行役員営業本部の坂東聡DS事業部長は、「これで、やりたいことが完結できた」と言う。
(写真は、「ザ・ビッグ元町店」の農産コーナー)
西友から承継した店舗は、全部で9店舗。そのうち「ザ・ビッグ」になったのは、「元町店」と「福住店」(札幌市豊平区)。「福住店」も一旦オープンさせた後、3月に2週間休業して、積み残した課題を解決してリニューアルした。承継した9店舗のうち、「ザ・ビッグ」の2店舗を早々とリニューアルしたのは、イオン北海道にとって、「ザ・ビッグ」の存在が大きいからに他ならない。
先に開示された決算で、「ザ・ビッグ」の売り上げは563億7100万円と、初めて500億円の大台に乗った。伸び率は前期比8・8%となり、「マックスバリュ」などのスーパーマーケット(SM)の伸び率7・7%を上回った。インフレ環境になってからの伸びは高く、「ザ・ビッグ」の見方は、社内外で大きく変わった。西友承継9店舗の中で、いち早く「ザ・ビッグ」の戦闘態勢を整えたのは、正にそのことを裏付けている。
(写真は、帯広・鳥丸監修の「鶏の塩から揚げ」)
(写真は、鮮度とおいしさを追求した「鮨撰」)
一般的なSMに比べて、2割から3割安い価格を訴求する「ザ・ビッグ」は、価格だけではない価値も訴求する。それは、プチリッチ路線とも言えるものだ。帯広のから揚げ専門店「鳥丸」監修の「鶏の塩から揚げ」は、何度も何度も試行錯誤を繰り返して作り上げた。また、握り寿司の「鮨撰」は、SMでも人気の鮨のアッパー商品でもある。「売価を極力維持しつつ、鮮度、おいしさを追求するのが、ザ・ビッグの方向性」と坂東事業部長。
インフレ環境に適応した「ザ・ビッグ」にとって、「元町店」は、今後のモデルを築き上げていく実験店舗の位置付けになる。「元町店は、間違いなくザ・ビッグの旗艦店になるだろう。この店で成功事例をつくり、それを横展開していきたい」と坂東事業部長は息巻く。
イオン北海道の前身、マックスバリュ北海道が「ザ・ビッグ」の1号店を出店したのは。2010年2月のことだった。今年は、それから15年目に当たる。当時のマックスバリュは、打つ手打つ手がことごとく裏目に出て、八方ふさがりの状態だった。イオングループのマックスバリュ西日本が手掛けていた「ザ・ビッグ」業態を導入するしか、残された道はなかった。背水の陣で望んだ「ザ・ビッグ」は、消費者の心を掴んだ。1号店に押し寄せるお客を見て、当時の役員は、店頭で目頭を拭った。
試行錯誤を繰り返しながら、「ザ・ビッグ」は、500億円を超える売り上げを確保するまでになり、ダイイチや道北アークスを抜く存在になった。店舗数は25店舗で、単純計算すれば、単店で年商22億円を超える。札幌市内では、20億円台後半の収益店舗が揃う。全国のイオングループが展開する「ザ・ビッグ」の中でも、独特の進化を遂げたDSになった。坂東事業部長は、「さらに店舗を増やして成長軌道に弾みをつける」と言う。インフレ環境に適応したDSとして、「ザ・ビッグ」の成長と進化が続く。