【新店の研究】「イオン旭川春光ショッピングセンター」~地域との共生を目指す新スタイル③

流通

 2024年9月13日に開業した「イオン旭川春光ショッピングセンター」(旭川市春光町10番地、以下イオン旭川春光SC)のオープンチラシの表紙には、「ただいま」の文字が踊った。既存店の閉店から2年7ヵ月、イオン北海道(本社・札幌市白石区)は、「ただいま」の表現を使うことで、新施設と地域住民が近い距離にあることをアピールした。(写真は、ワークショップの意見を取り入れて設けた屋外パーク)

 建て替え前の「イオン旭川春光店」は、1981年にオープンした「ニチイ旭川店」が前身で、旭川で最も歴史のあるGMS(総合スーパー)だった。建て替えのため閉店が決まると、地域住民の惜しむ声が日に日に大きくなり、その声はイオン北海道にも届くようになった。

 桜の花びらを模した、メモに書かれたメッセージは、1000枚以上に及び、店舗の柱と床には、ゴマフアザラシなどの落書きも描かれた。41年間の営業を通じて、地域住民との絆が育まれていたことを如実に示す閉店になった。イオン北海道にとっても、地域住民がこれほど愛着を持っていた店舗だったことは、驚きだったようだ。

 一般的な店舗建て替えは、企業の論理でフォーマットが決まる。地域の環境に合わせて企業が最適解を決め、地域住民の思いが入る余地は少ない。しかし、この施設は違った。閉店に至るまでの地域住民のムーブメントは、イオン北海道を動かし、これまでにない住民参加型の施設づくりへと発展した。閉店後、3回にわたったイオン北海道と地域住民のワークショップで、施設のコンセプト『ココロつながる、ちかくのトコロ』が決まった。

(写真は、デジダルサイネージが設置されている館内ひろば)

 そのコンセプトに沿って設けられたのが、「館内ひろば」と「屋外パーク」だった。専門店中央入り口付近に設けられた「館内ひろば」は、吹き抜けになっており、天窓が外の光を採り入れコンパクトな広さの中にも温かみが醸し出されている。柱の表面には、曲面のデジタルサイネージが設置され、旭山動物園のゴマフアザラシなどが映し出される。裏面は、木のまち・旭川を象徴するモニュメント。買い物の合間に休める空間で、地域の人たちのワークショップや体験イベントも開催できるひろばになっている。

(写真は、ニチイ時代からシンボルになっているイチョウの木)

「屋外パーク」は、ニチイ時代からのシンボルになっていたイチョウの木を残し、その木を望めるように配置された。テニスコート1面が入りそうな空間には、人工芝が敷かれ、石を模したゴムブロックが置かれている。四季を生かしたイベントを、地域と一体となって創出していく場となる。

 イオン北海道の青栁英樹社長は、イオン旭川春光SCについて「地域住民と創り上げる新しい考え方を取り入れた施設」と強調する。同社は、他の店舗でもさまざまなイベントを展開しているが、「自分たちの独りよがりのイベントを開催しても、地元の人たちが来ない限り継続しない」(青栁社長)というジレンマも抱えていた。イオン旭川春光SCは、地域と一体となった施設づくりの嚆矢となった。青栁社長が付け加える。「これからの小売店舗は、地元との共生や地域を盛り上げる地域活動に繋げる機能がないと生き残れない」。旭川のGMS発祥の地で、「ただいま」の声とともに新たなスタイルへの挑戦が始まった。

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