ニトリHD落札の室蘭・汐見団地、昭和を閉じ込めた異空間

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 そこに立つだけで昭和に戻ったような感覚になった。室蘭市東町1丁目の旧市営住宅東町「汐見団地」跡。風雪が沁み込んだコンクリートの外壁、錆びたシャッターに描かれた絵。5棟の団地に囲まれた若草公園には、鉄棒やブランコの支柱も残されていた。
(写真は、旧市営住宅「汐見団地」)

 汐見団地は、昭和36年(1961年)から同40年(1966年)に建設された団地。5棟、218戸からなり、高度成長期、活気に満ちた室蘭のマチを支える一端を担った。大半の住宅には浴室がなかった。当時としては、これが当たり前のこと。1階や2階に商店が入った下駄履き住宅も、あの頃の先端仕様だった。多くの人がここで生活をし、同じ時代を過ごした。

 40年、50年と時が過ぎ、建物は老朽化。市は平成23年(2011年)から一部建て替えを行うことを決めた。しかし、最終的に5棟を含め約2950坪(約9738㎡)を公募提案型で売却することにした。優先交渉権者に選ばれて落札したのは、ニトリホ―ルディングス(HD、札幌本社・札幌市北区、東京本社・東京都北区)。近くにある弥生ショッピングセンター内の「ニトリ室蘭店」の移転用地とするためで、落札額は4億5000万円。市の最低売却価格の23倍だった。

 汐見団地の一帯は、昭和の時代を閉じ込めたような異空間が広がる。今にも住宅の窓から住人が顔を出してきそうだし、若草公園の鉄棒やブランコでは、子どもたちの遊ぶ姿が見えてきそう。年輪を刻んだ建物は間もなく形を失い、土地は時代を遡って真っ新になって次の役目を待つ。

(写真は、旧市営住宅「汐見団地」)

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