セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長兼CEO(83)が7日、経営から退く意向を表明した。自ら提案したセブンーイレブン・ジャパンのトップ人事案が取締役会で否決された責任を取るのが理由のようだが、日本の流通界のカリスマとしてはあっけない引退劇だ。IMG_1626(写真は、セブン&アイ・ホールディングス本社)

 流通界のカリスマが引退する場面は、過去に何度もあった。ダイエー中内功氏、マイカル小林敏峯氏など。そんな既視感と違うのは鈴木会長が率いるセブン&アイが過去最高の営業益を計上している中での引退という点だ。業績悪化の責任ではなく、中興の祖である鈴木氏の意向が通らないというガバナンス(企業統治)に自身が否定されたと受け取ったからだ。経営者の意向が通らない組織を経営する意味はない、そう考えるのはむしろ当然だろう。
 
 鈴木氏があと10歳若ければ、人事案は否決されなかったかもしれない。この10年で鈴木氏のカリスマ性は増幅された。当たり前のことを喋っても言葉が増幅されて神格化が進む。それを有り難がる人たちが社内外に増えていく。いつしか本人も実像と虚像の見極めが曖昧になり、ずれたところで心の安定を保つようになると老害が起こってくるという訳だ。
 ニトリ創業者の似鳥昭雄氏もこの10年で神格化が一気に進んだ。しかし、似鳥氏は自らを笑うことができる。以前こんなことを聞いた。似鳥氏が飲料会社のトップと会った際に『あなたサントリ、私ニトリ』と笑わせたという。そんなことをさらりと言うのは、トップとしてどうかと思う人もいるが、多くの人間集団を率いていくにはむしろ似鳥氏の方が向いているのかもしれない。
 
 セブン&アイと提携しているある企業の社長は、鈴木氏と会食したことは一度もないと言っていた。いつも会長室で会い、同席したセブン&アイの首脳陣は立ったままだったという。その社長はイトーヨーカ堂創業者でセブン&アイ名誉会長の伊藤雅俊氏とは会食する機会が何度となくあったそうで、会食中でも伊藤氏はいつも熱心にメモを取っていたそうだ。この差が印象的だったと語っていた。
 
 流通業ほど人間的な業界はない。それだけトップの力量に業績が左右される。鈴木氏が去った後のセブン&アイを率いていく顔は見えない。最強の流通軍団はどっちに向かうのか。


7人の方がこの記事に「いいんでない!」と言っています。